ベートーヴェンの交響曲第5番《運命》の基本動機は、「ソソソミー」のいわゆる「運命動機」。交響曲の場合、通常はひとつの楽章に複数の基本動機が使われ、動機は楽章ごとに変わります。でもベートーヴェンは《運命》において、《運命動機》ひとつで4楽章全体を構成しました[注1] 。
このような作曲の仕方を主題動機労作(あるいは動機労作、主題労作)と呼びます。
主題動機労作とは
主題の中に含まれる小さな旋律動機やリズム動機を、各パートにちりばめながら構成していく作曲方法。発案者はハイドン。この方法を使って作曲した《ロシア弦楽四重奏曲作品33》を、「全く新しい特別な方法で作った」と述べています。
ハイドンが考え出したこの作曲方法は、モーツァルトに大きな影響を与えました。また、ハイドンの弟子ベートーヴェンは《英雄》《運命》《田園》などで徹底的に主題動機労作し、この道のエキスパートに。
それ以降、ドイツ語圏の作曲家を中心にこの主題動機労作が受け継がれていきます。
ブラームスは20歳にして、ドイツの伝統である交響曲を書く運命を定められた人(ブラ1は突破口だった参照)でしたね。もちろん、最初の交響曲からこの方法を使っています。
ブラ1の基本動機:ドード#ーレ
前置きが長くなりましたが、ブラ1第1楽章の基本動機はドード#ーレ。序奏部の主旋律(ヴァイオリンとチェロの上行旋律)の最初の3音ですが、他にもあちこちにあります。
序奏部が終わって主部アレグロになったところのフルート、オーボエ、クラリネットもドーード#ーレですし、ヴァイオリンの第1主題の裏のチェロとファゴットによる対旋律もドーード#ーレ(譜例1)。
譜例1:ブラ1第1楽章定時部冒頭(38小節〜) |
基本動機を見つけよう!
別にドから始まらなくても、半音ずつ上行する3音以上の音型は、この基本動機。第1主題の続きの対旋律は、コントラファゴットやコントラバスも加わったソーーソ#ーラです。
あるいは、鏡にうつした形のように半音ずつ下降する形で使うこともできます。フルート、オーボエ、クラリネットのドーード#ーレと同時に、ファゴットはラ♮ーラ♭ーソーファ#と降りています。
ソナタ形式の崩し方:ブラ1第1楽章の第2主題で書いたように、オーボエの第2主題は基本動機をふたつ、ジグザグに組み合わせた形でした。
さらに、間に音が入っている例もあります(譜例2。オーボエやクラリネットは基本動機)。
譜例2:ブラ1第1楽章提示部コデッタ(161小節〜) |
再現部の入りをわからなくしているのも、この基本動機が連続していて、半音ずつ上行の形が続いているからでしたね(ソナタ形式の崩し方:ブラ1第1楽章再現部参照)。
ブラームス、基本動機の半音進行型をあちこちに隠していますよ。自分のパートを演奏するときは、宝探しのように見つけてあげてください。
第1楽章序奏部は後付け
さすがブラームス、曲の一番最初の3音を基本動機にしたのか、すごいな〜と感心した方へ。残念ながら逆です。
この楽章、アレグロ以降の主部が先に作曲されました。ブラームスさん、基本動機から音楽が始まるようにはめ込んだ序奏部を、後から加えました。単純な3層構造のオープニング(ブラ1の楽しみ方①:第1楽章冒頭のオルゲルプンクト参照)、本当に効果抜群ですね。
- 長岡英『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』アルテスパブリッシング、2014年、183ページ「《運命》全体もふりかけごはん?」参照。
- Johannes Brahms portrait 1889.
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