前回、モーツァルトがソナタ形式の展開部と再現部の境目をわかりにくく作曲した例を取り上げました。モーツァルトの「時代を先取り」について書きながら、私が思い浮かべていたのはブラームス。
彼は交響曲第1番において、ソナタ形式を標準形と異なる形で使っているからです。第1楽章の展開部と再現部の境目は、とてもわかりにくく作られています。
ブラームス:交響曲第1番ハ短調第1楽章 主部
ティンパニなどの c のオルゲルプンクトで始まる序奏部 Un poco sostenuto に続いて、Allegro の主部が始まります。ファースト・ヴァイオリンが非常に音域が広い(これもロマン派音楽の特徴のひとつ)第1主題を演奏します。
再現部はどこから?
それでは再現部は? 第1主題が戻ってくる練習番号 L(9:38)から? ちょっと待ってください。Allegro の主部つまり提示部の開始は、第1主題が始まる4小節前。ですから、再現部の開始も L の4小節前の339小節、9:33からが正解です。でも、これに気づくのは簡単ではありません。
再現部の出を隠したブラームス
c-cis-d というこの楽章の基本動機からが再現部ですが、その4小節前からフルート、オーボエ、ファースト・ヴァイオリンが、fis-g-gis、a-b-h と半音ずつ上行する3音パターンを演奏。c-cis-d はその続きです。
同じパターン3回のうちの3回目から再現部なんて、普通は考えませんよね。
さらにその8小節前(327小節)から、木管楽器とホルンによる c-cis-d、es-e-f の3音パターンが始まっています。再現部の出は、用意周到に隠されているのです。
標準形のままソナタ形式を使うのは、ダサい!
交響曲には、ソナタ形式の楽章が必要です。でも、19世紀後半に活動したブラームス、既にさんざん使い古されたソナタ形式を標準形のまま使うのは、避けたかったのです。
そのため、枠組みを尊重しつつ、あちこちちょっと崩しながら使っています。次回もブラームスによる「ソナタ形式の崩し方」について書きます。
注
- Johannes Brahms portrait 1889. https://youtu.be/r8LhN7GN3q0 Simon Rattle, the Berliner Philharmoniker.
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