083 「宗教改革」の楽器編成

2024/10/08

コントラファゴット トロンボーン ベートーヴェン メンデルスゾーン 交響曲

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聖フィルは次回定期演奏会で、メンデルスゾーンの交響曲ニ短調を取り上げます。

この交響曲は、作曲者の没後20年以上経った1868年に出版(この辺の事情はまた改めて)される際、出版社によって付けられた「宗教改革」というニックネームで知られています。

メンデルスゾーン本人も、この新しい交響曲の構想を家族に伝える手紙(18299月)のなかで、「宗教改革交響曲」と書きました[注1]。彼は、翌1830625日のアウクスブルク信仰告白祭に、新作交響曲を委嘱されると予想して、「宗教改革交響曲」の作曲を始めたのです。

宗教改革というと一般に、マルティン・ルターがヴィッテンベルクの教会の扉に「95か条の論題」を掲示した、15171031日を思い浮かべる方が多いと思います。

でもここでは、1530625日にフィリップ・メランヒトンが信仰告白を起草し、アウクスブルク帝国議会に提出した、その300年祭のことでした(ちなみに聖光学院は、プロテスタントではなくカトリックです)。

メンデルスゾーンの「宗教改革交響曲」は、(信仰告白祭にちゃんと間に合う)1830512日に完成。しかし残念ながら委嘱されなかったため、この新作交響曲は演奏されませんでした。

「宗教改革」とトロンボーン

このような背景を持つ交響曲なので、メンデルスゾーンは通常の二管編成に加えてトロンボーン3つ、用いています。

トロンボーンはルネサンス時代以来、教会で聖歌隊の支えとして使われた特別な楽器。世俗曲である交響曲では使えません。

既にベートーヴェンが掟破りをして、交響曲第5番ハ短調の終楽章と第6番ヘ長調の第4&第5楽章(180812月初演)、第9番ニ短調の第2&第4楽章(18245月初演)でトロンボーンを使用。

しかしメンデルスゾーンは、1829年のスコットランド旅行中に着想を得たイ短調のいわゆる「スコットランド」交響曲や、1830年のイタリア旅行中に着想を得たイ長調のいわゆる「イタリア」交響曲では、トロンボーンを使っていません。

でも、宗教との関わりから構想されたこのニ短調交響曲では、むしろトロンボーンを使うべきだと考えたのでしょう。

1楽章では、宗教的フレーズが引用される序奏部でトロンボーンを使っています。主部に入るとお休みで、第2楽章と第3楽章は tacet。

コラール《神は我がやぐら》の引用で始まり、その変形も用いられる第4楽章で再登場。この楽章では全体をとおしてトロンボーンが使われます。

それにしても、019 コラールとは何か ②でメンデルスゾーンの「宗教改革」について触れたとき、こんなに近い将来、この曲を練習することになるとは思いもしませんでした。コラールと《神は我がやぐら》については、018  コラールとは何か ①参照してください。

「宗教改革」とセルパン

メンデルスゾーンは「宗教改革」終楽章で、トロンボーン以外にも楽器を2つ加えました。コントラファゴットセルパンです。

コントラファゴットは、ベートーヴェンも低音補強のため、交響曲第5番と第9番に使いました。でもメンデルスゾーンはここで、コントラファゴットだけでなく、一緒にセルパンも導入しています。

自筆譜の上からフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット。その下の5段目に、コントラファゴットとセルパンを1段として書き込んでいます。

セルパンも他の楽器のように、イタリア語で Serpente と記載していますね(ちなみにその下2段がホルン。さらにその下2段、Andante con moto の記入の上下は、トランペットではなくハ音記号とヘ音記号のトロンボーンが書かれています)。

メンデルスゾーン:交響曲ニ短調「宗教改革」自筆譜より第4楽章冒頭部(部分)

セルパンとは少し意外ではないでしょうか。1830年に作曲された《幻想交響曲》でベルリオーズは、新しく開発された低音楽器オフィクレイドを使っています現在では代わりにテューバが使われますね。次回は、このセルパンについて書きます。

  1. 柴辻純子『メンデルスゾーン:交響曲第5番ニ短調作品107「宗教改革」ミニチュア・スコア、解説』全音楽譜出版社、2019、p.4。

  • Ölporträt Felix Mendelssohn Bartholdys, gemalt 1846 von Eduard Magnus.

演奏会情報

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聖光学院管弦楽団第30回記念演奏会

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