004 《第九》の中の対位法

2022/04/19

ベートーヴェン 交響曲 対位法 第九

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前回のコラム「パレストリーナとオーケストラ」で取り上げた、対位法。交響曲のなかでどのように使われているか、《第九》を例に見てみましょう。

交響曲はホモフォニーで作曲されるのが一般的

ホモフォニーとは、普段よく聴く「旋律+伴奏」で構成される音楽。メロディーを追いかけながら聴けば良いので、わかりやすい音楽です。

でも、単調さを避けるなどの理由で、部分的に対位法を取り入れることもあります。先週書いたように、対位法は旋律に対旋律を加える「旋律+旋律」で構成されます。ホモフォニーではなくポリフォニーと言い、どの声部も等しく重要なのが特徴。

ベートーヴェンと対位法

ベートーヴェンの交響曲では7番以降、対位法書法が増えます[注1]。《第九》の中にはフーガが使われています。

フーガとは

ある主題に基づく、2声以上の、対位法による作曲技法

最初に各声部が、主題を順番に模倣します。

カノンとの違い

より単純な(より厳格な?)対位法であるカノンでは、主題が同度(同じ高さの音)から同じ間隔で反復されますが、フーガは同度からではありません。

フーガにおける主題提示

たとえば、ドから始まる主題を使ってフーガを作る場合:

  1. 最初のパートが主題全体を提示(duxと呼びます)
  2. 2番目のパートは、主題を5度上(または4度下)に移して模倣(ソから始まりますね。comesと呼びます)
  3. 3番目のパートは、最初と同じドからの主題を模倣(dux)
  4. 4番目のパート(もある場合)は、5度上(または4度下)に移したソからの主題を模倣(comes)

全声部が主題を1回ずつ提示し終わると一段落。この部分がフーガの「提示部」です[注2]。

《第九》の中のフーガ提示部たち

2楽章スケルツォ主部

ティンパニ独奏を含む序奏が終わった後、第2ヴァイオリンからフーガが始まります。「タンッタタ」というリズムのオクターヴの下降跳躍で始まる主題が、

    2nd vn → va → vc → 1st vn  cb

の順で提示されます(これが何の順番かはまた改めて)。主題の最初の音は、

    (dux) → レ(comes) → ラ → レ → ラ

フーガの提示部のみですが、ここでは音楽の緊張度が高まります。セカンド(とオーボエ)だけがピアニッシモで始めるので、なおさら(ヴィオラは2番手。最初じゃなくて良かった!なんて思いながらドキドキ待っていると、あっという間に出番)。

4楽章の二重フーガ

二重フーガとは、旋律を2つ組み合わせた、より複雑なフーガ。Allegro energico, sempre ben marcato ニ長調 6/4 拍子の部分では

  • 合唱の Sop が歓喜主題の変奏 
  • 合唱の Alt が(前の Andante maestoso のセクションの)教会音楽風主題 

を歌い、ペアで模倣されます。最初のソプラノの歓喜主題は、ファ#から(dux)。次のバスの歓喜主題はド#から(comes)。

オケだけの二重フーガ

これより前には、オケだけの二重フーガがあります。トルコ行進曲セクションの中に、

  • vc + cb による8分音符刻みの主題
  • 2nd vn によるトルコ行進曲のシンコペーション・リズムを用いた主題

これらを組み合わせた、長大な二重フーガが始まります。やがてトゥッティ+フォルティッシモの、ファ#だけのユニゾンによるシンコペーション(54:59〜)。緊張感が高まる中、ホルンだけが残ってピアニッシモで同じリズムを3回繰り返し、歓喜主題の大合唱(+弦による8分音符の対旋律)へ(55:26〜)。

対位法書法セクションにおける緊張の蓄積と、その後のホモフォニー書法セクションでの開放がお見事!

ベートーヴェンの後期作品には、対位法技法がいっぱい

《第九》に限らず、後期三大ピアノ・ソナタや《ミサ・ソレ》などでも、変奏技法とともに対位法書法がたくさん使われています。弦楽四重奏曲《大フーガ》もこの時期の作品。

ロマン派の新しい流れの中、晩年のベートーヴェンは伝統的書法に立ち返り、独自の境地を切り開いていますね。

  1. 交響曲第6番までは、主に主題動機労作を用いて作曲していました。
  2. 主題提示だけでなく、その後の対位句の付け方や、comes の守調的応答など様々な決まりがありますが、ここでは省略します。
  3. Portrait by Joseph Karl Stieler, 1820. https://youtu.be/ixpfgm_xxSE Herbert von Karjan conducting the Berlin Philharmonic (1977).

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