次回9月の聖フィル定期演奏会のメイン曲、ブラームスの交響曲第1番の練習が始まりました。ブラ1第1楽章のオープニングは、ティンパニの「どん・どん・どん」が超かっこいいですよね。
ティンパニとともに、コントラファゴットとコントラバスも8小節間ドを繰り返します。さらにホルン(とトランペット)はドの音を伸ばしています。
このような低い音域で長く伸ばされた音を、オルゲルプンクトと呼びます。
オルゲルプンクトとは
オルゲルプンクトはドイツ語。直訳すると「オルガン点」。英語では「オルガン・ポイント」あるいは「ペダル・ポイント」です。
オルガンの足鍵盤(ペダル)でひとつの音をずーっと伸ばしながら、両手で手鍵盤を演奏するところを想像してください。その、足で押さえている音がオルゲルプンクト。
オルゲルプンクトの例
オルガンではありませんが、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1番ハ長調のフーガの最後は、一番下にドの音が4小節間キープされています(譜例1)。上で和声がいろいろに変化しますが、それに関係なく同じ音が引き伸ばされます。
譜例1 バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番フーガより |
動画でも、上鍵盤の下から2つ目のドの鍵盤が、ずっと沈んだままですね。
ちなみにウィキペディア日本語版の「交響曲第1番(ブラームス)」では「C音を8分音符で連打する力強いオスティナートの上に」と書いてありますが、オスティナートはラヴェルの《ボレロ》のような、繰り返されるモティーフあるいはフレーズを呼ぶ言葉。ここのドの連打はオルゲルプンクト、あるいは持続低音と呼ぶ方がピンと来ます。
第1楽章序奏部冒頭の三層構造
譜例2の色分けのように、第1楽章序奏部の冒頭は三層構造。
ヴァイオリンとチェロが担当する主旋律は、ハ短調の主音ドから半音または全音で上行します。木管楽器群とホルン、ヴィオラによる対旋律は、反対にドから下がっていきます。そしてもうひとつの層が、上がりも下がりもしないドのオルゲルプンクト。
譜例2 ブラームス:交響曲第1番第1楽章冒頭 |
主旋律のリズム
この8分音符のドたち、とても重要です。聴き慣れたから特に不思議に思わないものの、改めて見てみると主旋律のリズムが複雑だからです。
第1小節でドを5拍伸ばして、次のド#に変わるのは最後の6拍目。それをタイで第2小節に伸ばして、次のレに変わるのは3拍目。5拍目の裏からミ♭・ファ・ソと動き、そのソがタイで第3小節目へ。3拍目でラ♭、6拍目でラ♮に上がり、タイで第4小節目に入って3拍目で最高音シ♭へ。
どの音も強拍の1拍目と4拍目を避けて、シンコペーションでずりずり(!?!)動きます。この複雑なリズムを仕切っているのが、ゆるぎなく繰り返される8分音符のド。
オルゲルプンクト担当パート(特にティンパニ)は、まさにこのオープニングの支配者です!!!
ブラームスはこのように、主音のオルゲルプンクト(トニック・ペダル)を使う傾向があります。彼の分厚い重厚な響きに一役買っていますね。
- Johannes Brahms portrait 1889. https://youtu.be/PF9XHoaLWbY Joseph O'Neill, St. Barnabus Church, York, UK
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