メンデルスゾーンがトロンボーン、コントラファゴットと共に(083 「宗教改革」の楽器編成参照)ニ短調交響曲の第4楽章に導入したセルパン。このセルパンとは、どのような楽器でしょうか? メンデルスゾーンはなぜ、セルパンを使ったのでしょうか?
セルパンとは?
セルパンはフランス語。綴りは Serpent で、英語のサーペントと同じです。 蛇 という意味ですね。スネイクSnakeよりも大きな蛇を指します。
セルパンの名前は、ダブル「S」字型とも言えるその変わった形に由来します。確かに大蛇のような面白い形をしていますが、蛇を模倣したわけではありません。かなり長い楽器の指孔を、奏者の手の届く範囲に収めるため、このような形になりました。
セルパンの構造
曲がりくねった管は、約 2.13m[注1]。管は円錐形で、管の内径は 1.3 cm から10.2 cmくらいまで広がります。管の部分は木製(クルミ材など)ですが、革で覆われています。細い方の端に直角に曲がった金属製の細い管を付けるので、全長は2.44mほど。
その先に、バス・トロンボーンのマウスピースに似たカップ型のマウスピースを付けます。マウスピースは象牙や角製でした。
側面に指孔が空いていますが、親指の穴はありません。3つの孔が2つのグループに配置されます。
指孔のある木製の楽器ですが、奏者の唇の振動によって音が作られるので、ルネサンス時代のコルネット(ドイツ語ではツィンク)と同様、金管楽器に分類されます。
図:セルパン、18世紀後半イタリア(Museo Civico di Modena蔵) |
セルパンの歴史
セルパンの正確な起源はわかりません。フランスの歴史家ジャン・ルブーフは1743年の著作『オセールの教会史と民俗史に関する覚書Mémoires Concernant l'Histoire Ecclésiastique et Civile d'Auxerre』の中で、セルパンが1590年にフランスのオセールの聖職者エドメ・ギョームによって発明されたと書いていて、これが一般に受け入れられています。
この楽器はフランスで、17世紀初頭から教会で広く使われるようになりました。聖歌隊の定旋律(グレゴリオ聖歌など)声部を支え、補強するためです(セルパン用の作品は作曲されませんでした)。
18世紀半ばから後半にかけて、オペラの作曲家によってオーケストラに導入され始め、その後軍楽隊に採用されました。
一方ドイツでは、セルパンは18世紀に入ってからも知られていませんでした。ヘンデルは、イギリスで初めてセルパンを知り、《王宮の花火のための音楽》(1749年)に取り入れています(後にセルパン・パートを削除)。
メンデルスゾーンとセルパン
メンデルスゾーンは、ニ短調交響曲「宗教改革」(1830)の終楽章で、コントラファゴットとセルパンをペアで採用しました。また、オラトリオ《聖パウロ》(1836)でも同様に、コントラファゴットとセルパンを使っています。
オラトリオはもちろんですが、ニ短調交響曲の終楽章では、ルターのコラール《神はわがやぐら》が引用されていて、宗教と関係があります。ですから、元々教会で聖歌隊の支えとして使われていたセルパンが導入されても不思議ではありません。
でもメンデルスゾーンは1828年に、演奏会用序曲《静かな海と楽しい航海》でもコントラファゴットとセルパンを使いました。この楽器の音色にこだわりがあったのでしょうか。
セルパンは後に半音階のキーが増え、最終的には14個のキーを持つことになります。しかし、オーケストラにおけるセルパンは、オフィクレイド、ユーフォニアム、テューバといった、より新しくより適した低音金管楽器に取って代わられました。
注
- 今回のコラムは、以下を参考にしています。Morley-Pegge, Reginald, Philip Bate, and Stephen J.Weston. "Serpent" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 23: 140-146.
- Ölporträt Felix Mendelssohn Bartholdys, gemalt 1846 von Eduard Magnus. https://youtu.be/GHVPA9GHZhc?si=Pt-GJKCeNMIsBmB7 , Händel's original Serpent part in "Music for the Royal Fireworks" (1749). Performed with the "Euskadiko Orkestra - Basque National Orchestra" (conducted by Maite Aurrekoetxea). Played on an English military Serpent of the late 18th / early 19th centuries.
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