聖フィル次回の演奏会では、ベートーヴェンの第8番交響曲を取り上げます。ベートーヴェンの9つの交響曲の中で、ちょっと特異な存在の第8番。この曲は従来、「古典への回帰」と解釈されてきました。
規模が小さい?
理由のひとつは、小規模であること。ベートーヴェン自身がこれを「小規模な交響曲」としばしば語っていたそうです[注1]。
でも、小規模というのは、同じヘ長調で作られた交響曲第6番《田園》に比べてのことでしょう。
シューベルトの交響曲ハ長調《グレート》を思い出しますね。偉大だからではなく、2つあるハ長調交響曲のうちの大きい方という意味で、このニックネームがつきました。
ベト8は、確かに最初の3つの楽章は短いですが、その分(?!?)終楽章が長い! 全体として、ほど良い規模になっています。
第3楽章がメヌエット?
「古典への回帰」と解釈されたもうひとつの理由は、第3楽章がメヌエットに戻っていること。ベートーヴェンは交響曲第2番で第3楽章をメヌエットからスケルツォに変えて以来、ずっとスケルツォを作曲してきました。でも、第8番はメヌエット。流れに逆行して古い形に戻したと捉えられたのです。
でも、ちょっと待って!
第3楽章に記されているのはメヌエットではなく「Tempo di Menuetto」。メヌエットのテンポでです。このテンポ・ディ・メヌエットの楽章、古典的なメヌエットではありません。
ベートーヴェン:交響曲第8番第3楽章 |
一見、メヌエット本来の形をしているように見えます。メヌエットに続く中間部(トリオに相当する)の後にダ・カーポの指示。A―B―Aの完全なサンドイッチ構造です。
でも、各部分の長さは不均衡。また、中間部には調性の変化もテンポの変化も見られません。
しかも、上記譜例のように冒頭部分のリズム構造がユニーク。アウフタクトから始まる3拍が1グループになっていて、アウフタクトにも f や sf が置かれています。主題が始まるまで、アウフタクトが1拍目に聞こえますね。
テンポは遅いものの、スケルツォ的な性格(スケルツォはイタリア語で「冗談」という意味)が含まれているのです。
というわけで、ベト8は「古典への回帰」ではありません。ベートーヴェンの他の交響曲と同様、様々な革新的ポイントが含まれています(続く)。
注
- 平野昭他編『ベートーヴェン事典』東京書籍、1999、80ページ。他の部分も80〜85ページを参考にしています。
- Portrait by Joseph Kar l Stieler, 1820.
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。