059 ブラ1の楽しみ方④:終楽章と《歓喜の歌》は本当に似ているか?!?

2023/08/29

ソナタ形式 ブラ1 ブラームス ベートーヴェン 交響曲 第九

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ウィキペディア日本語版の「交響曲第1 (ブラームス)」には、終楽章の第1主題について以下のように書かれています。

以上の緩徐部分(序奏)が静かに終了すると、弦楽合奏が歌曲風の、16小節からなる二部形式の明確な楽節構造をとった第1主題をハ長調、アレグロ・ノン・トロッポで演奏し始める。この歌唱的主題はしばしばベートーヴェンの第九における《歓喜の歌》との類似性が指摘される。

ミニチュア・スコアの解説にも以下のように書かれています。

終楽章の第1主題が同(筆者注:ベートーヴェン)《第9交響曲》の「歓喜の主題」と似ていることも初演当時から指摘されている[注1]。

ブラ1終楽章第1主題(譜例1と《歓喜の歌(歓喜の主題)(譜例2、本当に似ているでしょうか??? 実は筆者は、あまり似ているとは感じられません。

今回は、ブラ1終楽章第1主題《歓喜の歌》はどこがどう似ているかを考えてみました。

譜例1:ブラームスの交響曲第1番終楽章第1主題
譜例2:ベートーヴェンの交響曲第9番終楽章《歓喜の歌》

ブラ1終楽章第1主題と《歓喜の歌》の共通点

  • 長調であること
  • 4/4拍子であること
  • 四分音符主体の旋律、特に1小節目が二分音符+四分音符+四分音符で同じリズム
  • 4小節x4=16小節の構造
  • 和声が単純であること。どちらも前半8小節はドミソ、シレソ、ドファラの基本3和音で伴奏できる

ブラ1終楽章第1主題と《歓喜の歌》の相違点

  • どちらも長調だが、ブラ1はハ長調、《歓喜の歌》はニ長調
  • ブラ1の第1主題はアウフタクト(=弱起。4拍目)から始まるが、《歓喜の歌》は1拍目から
  • 4小節をひとまとまりとして考えると、ブラ1AA’BCであるのに対し、《歓喜の歌》はAABA’ 
  • どちらも四分音符主体だが、ブラ1第1主題には八分音符も多い

こうして比較すると、ふたつとも非常に単純なフレーズであること以外、あまり似ていないように思われます。

でも、この「単純でわかりやすいフレーズ」という共通点が大きな意味を持つのです。

似ていると感じられる理由

終楽章第1主題と《歓喜の歌》が似ていると言われる理由。それは、旋律自体よりもむしろ、提示のされ方が似ているからでしょう、

ブラ1終楽章は、非常に長い序奏部で始まります。

ハ短調の序奏部前半は、不穏な、ある意味悲劇的な要素も感じさせる部分。ピッツィカートのやり取りや揺れ動くテンポなど、いったい何を目指しているのかはっきりさせないまま進んで行きます。

そこに響くのが、アルペンホルンの主題(ブラームスとクララ、ブラ1終楽章のアルペンホルン参照)。これは「自然」を象徴するフレーズ。ハ長調に変わり、それまで暗く不明瞭だった世界が、急にクリアになります。

これに続くトロンボーン群のコラール風フレーズは「信仰」の象徴です。

そして、このような多様な要素を持つ長い序奏の後に登場するのが、歌詞を付けて歌えそうな、単純でわかりやすい第1主題。

この第1主題の提示され方、似てますよね。

ベートーヴェンの《第九》終楽章で、オーケストラやバリトン独唱が「恐怖のファンファーレ」と「否定のレチタティーヴォ」を繰り返した後(第九の楽しみ方④:《第九》の要、第4楽章冒頭部参照)に、満を持して登場する《歓喜の歌》

皆が待ちわびた主題が「ようやく」始まります。

ふたつのフレーズはそれほど似ているわけではありませんが、長く複雑で難解な部分の後に登場する、シンプルで覚えやすい主題というところが共通しているのです。

ブラ1終楽章第1主題と《歓喜の歌》に共通する小節

実は、それだけではありません。ブラ1終楽章の第1主題には、《歓喜の歌》と共通する小節があります。

譜例3に示したように、7小節目に《歓喜の歌》の10小節目「みーふぁそふぁーれー」をハ長調に移調したれーみふぁみーどーがポコっとはめ込まれているのです。

また、9小節目(とタイで繋がった10小節目)の「れーみふぁみーれー」は、《歓喜の歌》の11小節目をハ長調に移調したものと完全に同じです。

譜例3 ブラ1終楽章第1主題と《歓喜の歌》に共通する小節

こんなことが偶然に起こるとは思えません。ブラームスは、《歓喜の歌》を意識的に組み込んだと考えられます

ブラームスはベートーヴェンの第5番交響曲を意識してブラ1を作ったことがよく知られていますが、実はこのように《第九》とも関連させているのです。

結論

ブラ1終楽章第1主題と《歓喜の歌》のフレーズは、似ているというほどは似ていません。しかし、提示のされ方や大きな存在感が共通しています。

また、少なくともブラームスがベートーヴェンを大いに意識してこのフレーズを作ったことは間違いないでしょう。

  1. 三宅幸夫『ブラームス:交響曲第1番ハ短調作品68、ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2003、p.ix。

  • Johannes Brahms portrait 1889. 譜例は Rifai, Ayah, "Tale of Two Finales: “Correcting” the Ninth in the Finale of Brahms’s First Symphony" Journal of Arts and Humanistics ( JAH) 38 Aから。
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