メンデルスゾーンの交響曲と言えば、第4番「イタリア」と第3番「スコットランド」。今回聖フィルが取り上げる第5番「宗教改革」は、ちょっと(かなり??)地味な存在です。実は私も(恥ずかしながら)名前しか知らなかったのですが、練習してみると魅力たっぷり!!
今回は《宗教改革》の聴きどころを3つ、ご紹介します。
1. 厳かなオープニング
第1楽章は、二分音符1つと四分音符2つの「ターンタンタン」のモティーフで始まります。この1小節間のモティーフはゆっくりしたテンポで、低い音域のヴィオラ→チェロ→ヴィオラとフルートと、次第に高い音域に4回受け継がれ、最初のフレーズを形成します(譜例1)。
静かな夜明けを思わせるこのニ長調のオープニングは、ルター派プロテスタントの誕生を象徴しているようにも聴こえます。
この荘厳な上行型の連なりに、管楽器によるゆったりとした下行旋律が答えます。音程を変えて2回繰り返した後、弦楽器がピアニッシモで「ドレスデン・アーメン」(上記譜例2)を2回。この後テンポが上がり、ニ短調の堂々とした主部が始まります。
2. ルターのコラール
第2楽章の軽快なスケルツォに続いて、第3楽章は第一ヴァイオリンが物悲しい旋律を歌い上げる、短い緩徐楽章。最後は、主音のソの音が低弦によって静かに保持され、そのまま終楽章へ。
ここでフルートによって奏される旋律は、宗教改革者マルティン・ルターの有名なコラール「神はわがやぐら」(譜例3、018 コラールとは何か ①参照)。宗教改革記念日に歌われる、日本語の讃美歌などでも知られたコラールの旋律(譜例4)とはリズムなどが異なりますが、重要な音は共通していますね。
このフルート・ソロは穏やかながら、その歌詞「わたしたちの神は強力なとりで、良い守りと武器である」のような、ゆるぎない意思を感じさせます。まるで神の声、あるいはルターの声のよう。
敬虔なプロテスタント信者ヨハン・ゼバスティアン・バッハが作った《マタイ受難曲》を、蘇演したメンデルスゾーン(089 メンデルスゾーンと《マタイ受難曲》①、090 ②参照)。プロテスタントに改宗し、アウグスブルクの信仰告白300周年に向けてこの曲を作った(083「宗教改革」の楽器編成参照)メンデルスゾーンの、こだわりを感じさせる部分です。
このコラールのメロディーは2回繰り返されますが、2回目は6小節目の後半から始まります。通常の音楽フレーズは2小節、4小節単位がほとんど。このように半小節半端になるのは珍しいのですが、16世紀の楽譜を見ると、理由がわかります。ルターの時代は(拍子はあったのですが、)楽譜に小節線が使われていませんでした。
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Walter's manuscript copy of "Ein feste Burg ist unser Gott" |
3. セルパン
メンデルスゾーンは終楽章の編成に、コントラファゴットとセルパンを加えました(084「宗教改革」とセルパン参照)。ルネサンス時代に教会で低音補強のために使われたセルパン。ルター作曲のコラールが引用される楽章にふさわしい楽器です。
現在では(セルパンの子孫とも言うべき)テューバで演奏されますが、今回の聖フィルの定期演奏会では、この珍しい楽器が登場!! 皆さま、ご期待ください。
注
- Ölporträt Felix Mendelssohn Bartholdys, gemalt 1846 von Eduard Magnus. 譜例1〜4は、柴辻純子『メンデルスゾーン:交響曲第5番ニ短調作品107「宗教改革」ミニチュア・スコア、解説』(全音楽譜出版社、2019)p. 7 & p. 10。Walter's manuscript copy of "Ein feste Burg ist unser Gott" (probably by Martin Luther). The image is taken from a scan of Germanisches Nationalmuseum Hs 83795 (formerly M 369m), folio 154v.
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