聖フィル♥コラム・リニューアル特別企画第3弾!
先日の聖光学院管弦楽団 第22回定期演奏会にいらしてくださったみなさま、どうもありがとうございました。楽しんでいただけましたでしょうか。聖フィル♥コラムでは、演奏会の後はいつもアンコール曲について書いていました。今回もそうしたいのですが、プログラムが盛り沢山すぎて、アンコールをご用意できないという初めての事態になってしまいました。
というわけで、今回は演奏会とは関係の無いコラムです。先日、私のペンネームについて、質問を受けました。
パレストリーナって何?
パレストリーナはローマ近郊の都市の名前ですが、多くの場合はそのパレストリーナで生まれた16世紀イタリアの作曲家ジョヴァンニ・ピエルルイージ・ダ・パレストリーナ(c.1525〜1594)を指します[注1]。
対抗宗教改革(反宗教改革)期のローマで活動し、ローマ教皇庁楽長も務めました。とりわけ、
トレント公会議でミサ典礼において多声音楽の使用が禁止されそうになったとき、パレストリーナが《教皇マルチェルスのミサ曲》を書き、それを救った。
という伝説が有名です。ただし、これは史実ではありません(トレント公会議で多声音楽は禁止されませんでしたし、パレストリーナがこの曲を作った時期も異なります)。
パレストリーナ:《教皇マルチェルスのミサ曲》より〈キリエ〉
この名前をペンネームにした理由は、私の専門が16世紀イタリアの宗教音楽だからです。
でもそれだけではありません。実はパレストリーナは間接的に、オーケストラ音楽にも大きな影響を与えることになるからです。
パレストリーナとオーケストラ音楽の関連とは?
ドイツの作曲家・音楽理論家 J. J. フックス(1660〜1741)は、1725年に対位法の教則本『グラドゥス・アド・パルナッスム』を出版しました。
対位法とは
ひとつの旋律に規則に従って他の旋律を重ねる作曲技法。和声学が縦に音を連ねる技法であるのに対し、対位法は横に音を連ねる技法です。フックスが『グラドゥス』で対位法の模範としたのは:
パレストリーナ様式
つまり、パレストリーナの声部書法でした。ラテン語で書かれたこの教則本はすぐに各国語に翻訳され、後世に大きな影響を与えます。
古典派の3巨頭ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンはいずれもこの教則本を用いて対位法を身につけました[注2]。20世紀に至るまで多くの音楽理論家に引用、参照されています。現在でも対位法を学ぶ者は、この教則本が確立した「厳格対位法」から勉強を始めるのです。
フックス:『グラドゥス・アド・パルナッスム』タイトルページ
16世紀イタリアで活躍したパレストリーナは、私が研究している作曲家のひとりというだけでなく、オケで演奏される曲を作った人たちが学んだ対位法技法の「模範」となった人です。
オケ関係者には、声楽なんて関心がないと言われる方も多いでしょう。でも実は器楽は、深いところで声楽と密接に結びついているのです。
注
- ダ・パレストリーナはイタリア語で「パレストリーナ出身の」という意味。《最後の晩餐》や《モナ・リザ》で有名なレオナルド・ダ・ヴィンチも、「ヴィンチ出身のレオナルド」という名前なので、美術の専門家はダ・ヴィンチではなくレオナルドと呼びます。でも、なぜかパレストリーナの場合は、ピエルルイージではなく出身地の名前で呼ばれています。
- White, Harry, "Fux, Johann Joseph,” in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 9: 365−375, 369.
- Giovanni Pierluigi da Palestrina, Lithografie (1828) von Henri-Joseph Hesse. https://youtu.be/BRfF7W4El60 The Tallis Scholars, Peter Phillips.
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