聖フィル第27回定期演奏会にいらしてくださった皆さま、どうもありがとうございました。宮田大さんのドヴォコン、圧巻でしたね! 彼の豊かな音楽性と素晴らしい響き(特に弱音!)に感化され、聖フィルのアンサンブルも少し磨かれた気がします。本当に得難い経験でした。
定期演奏会後の聖フィル♥コラム恒例、アンコールシリーズ。今回は、宮田大さんが弾いてくださった、マーク・サマーの《ジュリー・オー Julie-O》について。
作曲者マーク・サマー Mark Summer
1958年カリフォルニア生まれ。ロサンジェルス近郊で育つ。
9歳でチェロの勉強を始める前から、ピアノやギターで曲を弾いたり書いたりして、ほとんど耳コピで演奏していました[注1] 。
高校時代にはロックバンドを組んでいました。その後、クリーヴランド音楽院でクリーヴランド管弦楽団の首席チェリスト、スティーヴン・ジェバーStephen Geber に師事。この音楽院時代について、
一種の試練のようなもので、私はそこであまり満足できず、ドロップアウトしそうになりました[注1] 。
でも、チェリストとしての技術に磨きをかけることができました(彼の言葉を直訳すると「磨きをかけざるを得なかった」になるのですが)[注1] 。
卒業後、1981年から3年間、カナダのウィニペグ交響楽団のチェロ奏者として活動。オーケストラを離れた後は、カナダの現代音楽アンサンブルやバロック音楽アンサンブルなどと演奏しました。
1985年秋、タートル・アイランド・カルテット Turtle Island Quartet を結成。サン・フランシスコのベイエリアに移住し、2015年までの30年間、カルテットのチェリストとして活動します。
2011年には彼のために作曲されたデビッド・バラクリシャンDavid Balakrishnan(タートル・アイランド・カルテットのヴァイオリニスト)の、チェロ協奏曲《Force of Nature》を初演し、協奏曲のソリストとしてアメリカ・デビューを果たしました[注2]。
サマーの音楽
彼に関する記述には、「オルタナティヴ alternative」という言葉がしばしば使われます。オルタナティヴなジャンルとか、オルタナティヴなアンサンブル、などです。
「あなたの音楽、そして他の即興弦楽器グループの音楽に対する聴衆は増えていると思いますか?」という問いに対して、サマー自身
オルタナティヴな室内楽の聴衆は増えていると思いますし、これからも広がっていくと思います。興味深いのは、伝統的な室内楽の聴衆がどうなるかということでしょう[注1]。
と答えています。
alternative というと、「二者択一、選択肢、代わり」などの訳語が思い浮かびます。しかしここでは「古い伝統的なやりかたと違った、既成社会の基準によらない」という意味でしょう。
インタヴューでも、「オルタナティヴな室内楽」を「伝統的な室内楽」の対になる言葉として使っていますね。the alternative society「非伝統的社会」という新英和中辞典(研究社)の例文も参考になるかもしれません。
《ジュリー・オー Julie-O》について
サマーが作った曲のなかで最も有名なのが、《ジュリー・オー》。タートル・アイランド・カルテットの2枚目のアルバム「メトロポリス」(1989 )に収められた、無伴奏チェロのための作品です。
サマーのホームページは
現代の傑出したチェリストのひとりとして広く認められているマーク・サマーは、弓を使ったジャズやフィドルのフレージングを組み合わせた、驚異的なパーカッションとピチカートのテクニックで世界中に知られています[注2]。
という紹介で始まります。《ジュリー・オー》はまさにその彼のテクニック、弓で弾くアルコと指で弾くピッツィカートを交互に使い、楽器を叩くパーカッションの要素も取り入れた曲。
ジャズやポップスなど非クラシック音楽的テイストや、民族音楽的な要素が混ざり合って、まさにオルタナティヴ。
現代曲の演奏でも定評のある宮田大さんの、ドヴォコンでは見られなかった多様な魅力を味わうことができる、贅沢なアンコールでした。
チェロ独奏とチェロ二重奏の《ジュリー・オー》が知られていますが、ホームページにはヴァイオリンとチェロ二重奏、ヴァイオリン独奏、ヴィオラ独奏、なんとコントラバス独奏版の楽譜もありました[注2]。
様々な動画のなかから、作曲者本人の演奏をあげておきます。残念ながら音は良くないのですが、ハッピーな演奏をお楽しみください。
作曲者マーク・サマーによる《ジュリー・オー》
注
- Study of a three-quarter size cello. Photo by Michael Maggs, Wikimedia Commons. https://youtu.be/JHCcD5d56ns Cello Performance: "Julie-O" by Mark Summer. TDExMarin.
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