ヴェーベルンがオーケストラ用に編曲したヨハン・ゼバスティアン・バッハの6声のリチュルカーレは、《音楽の捧げもの》に含まれる6声のフーガ(082 リチェルカーレとは何か参照)。《音楽の捧げもの》における最高傑作であり、音楽学者のチャールズ・ローゼンは「音楽史における最も重要なピアノ曲」と評しています[注1]。
《音楽の捧げもの》の作曲経緯
バッハは、1747年5月7日にポツダムのプロイセン王国国王フリードリヒ2世(通称フリードリヒ大王)を訪問。次男カール・フィリップ・エマヌエル・バッハが、1840 年から公式に大王の宮廷楽団で第1チェンバロ奏者を務めていたためと考えられます。
このときバッハはいわゆる「大王の主題」を与えられ、大王が自慢にしていたゴットフリート・ジルバーマン開発の実験的な楽器フォルテピアノで、フーガを即興演奏しました。
リクエストされたうち、3声のフーガは素晴らしい即興を披露。しかし、もうひとつのリクエストだった6声のフーガは、大王の主題が難しすぎたため、代わりの主題で即興演奏をしました。
王のリクエストに完全に沿うことができなくて、悔しかった(?!)のでしょうか。バッハはライプツィヒに帰った後、大王の主題で6声のフーガを作曲。それを含めた対位法作品集《音楽の捧げもの》を同年9月に出版し、王に献呈しました。
「国王の主題」、確かにすごいですよね(どうすごいかは、次回書きます。まあどんな主題でも、6声のフーガをしかも即興で作ること自体、すご過ぎるのですが)。どうやってこんな難しい主題を考えたのでしょう?
というわけで、啓蒙専制君主フリードリッヒ2世がどのような音楽家!?だったのか、調べてみました。
国王になるまで
フリードリヒ2世は、1712年フリードリヒ・ヴィルヘルム1世の長子としてベルリンに誕生。父王の、現在であれば虐待とも言われるような指導?!にもかかわらず、早くから芸術に興味をもち、7才から大聖堂オルガニストのゴットリープ・ハインに通奏低音と4声の作曲を学びます[注2]。1731年にはドレスデンに行き、初めて見たオペラ(ヨハン・アドルフ・ハッセの《クレオフィデ》)に圧倒されました。またそこでヨハン・ヨアヒム・クヴァンツのフルート演奏を聞き、その後彼のレッスンを受けるようになります。
ペーヌ:プロイセン国王フリードリヒ2世のポートレート(1740年頃) |
国王として
1740年父王が崩御し、国王に即位。政治改革や軍事作戦を行います。並行して芸術と文学の復興にも取り組み、2ヶ月後には早速ベルリン・オペラの設立に着手。
宮廷楽長カール・ハインリヒ・グラウンの年俸は、2000ターラーという高額でした。また、以前からのフルート教師クヴァンツは1741年に、これも2000ターラーという驚くべき(楽長と同じ)年俸で、宮廷器楽奏者として雇われました(彼のドレスデン時代の年俸は、250ターラーだったそうです)。
1754年には、器楽奏者40人と独唱者8人という大所帯に(この他に、宮廷歌手とオペラの合唱団員が雇われていました)。1748年にプリマ・ドンナとして迎えられたジョヴァンナ・アストルナの年俸は、なんと大臣よりも高い6000ターラーだったそうです。
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ
それでは1740年に宮廷楽団に入り、1767年に退くまでチェンバロ奏者として、大王のフルート演奏の通奏低音を担当していたカール・フィリップ・エマヌエル・バッハの年俸は、いくらだったでしょうか?
1748 年頃の年俸は、わずか300ターラー!
音楽家たちのパトロンとして、また4つの協奏曲や121のソナタ(うち11は散逸)など多くのフルート作品の作曲家として音楽史にも名前を残したフリードリヒ大王。しかし、この金額を見ると疑問を感じてしまいます。
なぜなら、大王が雇った音楽家のなかでカール・フィリップ・エマヌエルこそが、その後の音楽の歴史において最も重要な役割を果たすことになったからです。
最後に、フリードリヒ2世が作曲したフルート・ソナタロ短調 S. 263 第2楽章をあげます。
注
- Rosen, Charles. "Best Piano Composition; Six Parts Genius" in The New York Times, 18 April 1999.
- 今回のコラムは以下を参照。Helm, E. Eugene, revised by Derek McCulloch. "Frederick II" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 9: 218-219.
- Johann Sebastian Bach (aged 61) in a portrait by Elias Gottlob Haussmann, second version of his 1746 canvas. Portrait of Frederick during his early reign by Antoine Pesne (c. 1740, Gripsholm Castle, Sweden). https://youtu.be/rrx8mgQD7aM?si=okEFgBkdDfjkwntn Frederick II: Sonata in B Minor, S. 263: II. Allegretto. Academy of Ancient Music, Christopher Hogwood.
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