モーツァルトが最後に完成させた劇作品《魔笛》(1791年)。次の聖フィル演奏会では、その序曲を取り上げます。
突然ですが、ここで問題です。
《魔笛》の序曲が変ホ長調なのはなぜ?!
ヒントは、3!
《魔笛》には、フリーメイソンとの関連が数多く指摘されています。
フリーメイソンとは?
フリーメイソンは18世紀にロンドンで結成された、秘密友愛結社、修徳慈善団体。
モーツァルト自身や、《魔笛》の注文主であり台本作者でもあり、鳥刺しパパゲーノ役も務めたヨハン・エマヌエル・シカネーダー(1751〜1803)もメンバーでした。
《魔笛》の初演でパパゲーノを演じたシカーネーダー |
ただ、このふたりは対照的。モーツァルトは1784年12月14日の入信後、わずか4ヶ月で「徒弟」から「職人」そして「親方」の位に昇進。一方のシカネーダーは「職人」から昇進することなく、1789年には破門されています[注1]。
フリーメイソンと「3」
フリーメイソンの教義は自由・平等・博愛の3つ。フリーメイソンでは、その思想を象徴するとして数字の「3」が重視され、《魔笛》にもあちこちに影響がみられます。
まず、3人組の登場人物が多いこと。3人の侍女、3人の僧、3人の童子、3人の奴隷などですね。
また、タミーノとパパゲーノが乗り越えなければならないと言われたのは、「沈黙の試練」「火の試練」「水の試練」の3つの試練でした(この修行や試練も、フリーメイソンの入信式などとの関連が指摘されています)。
序曲とフリーメイソン
序曲の冒頭、トゥッティの強奏で、荘重な三つの和音(短い和音も含めると5回)が奏されます。序曲の途中(提示部から展開部への推移)でも、今度は管楽器によって三つの和音。
同じような三和音は、第2幕初めに高僧ザラストロが僧たちに、タミーノが試練を受けたいと望んでいると告げる場面でも登場します。この三和音はフリーメイソンの象徴と言われます。
さて、最初の問題に戻りましょう。序曲が変ホ長調なのはなぜ? 弦楽器奏者にとってはあまりありがたくない調ですが(半音低いニ長調の方が楽ですよね)。
答えはフラット3つの調だから。これも3です[注2]。後にベートーヴェンが、同じ調で交響曲第3番《エロイカ》を作りました。
この変ホ長調は《魔笛》全体の基調になっていて、長調と短調の対比や調の選択、自然な転調などが、物語を深めています。
ちなみに、このように序曲のなかで、その後に続く本編の重要な音楽が使われるようになったのは、もっと後になってから。《フィガロの結婚》の序曲のように、モーツァルトの時代の序曲は、劇作品自体と特別な関わりを持たないものでした。
この《魔笛》や《ドン・ジョヴァンニ》の序曲における劇中音楽の引用は、時代の先取りです。
注
- 國土潤一『音楽之友社編、スタンダード・オペラ鑑賞ブック3、ドイツ・オペラ上』音楽之友社、1998、97。
- なぜシャープ3つの調ではないのかと聞かれると困るのですが、シャープ3つのイ長調よりもフラット3つの変ホ長調の方が落ち着いて安定した印象を受けるからかもしれません(もしかしてもしかすると、歴史的にシャープの記号が十字架の象徴であったこととも関係するかもしれません)。
- Mozart, c. 1781, detail from portrait by Johann Nepomuk della Croce. Emanuel Schikaneder as the first Papageno in Mozarts Die Zauberflöte. Front page of the original edition of the libretto of the Zauberflöte, Engraving by Ignaz Alberti.
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。