先日、聖フィル次回定期演奏会の曲目表記をチェックしました。
モーツァルト:歌劇《魔笛》K.620 序曲
これでオッケー。ですが、実はこれ、ちょっと微妙なところがあります。どこでしょう? 作品番号と序曲の順番が逆?
確かに作品番号は普通、最後。モーツァルト:歌劇《魔笛》序曲 K.620 の方が落ち着きが良い感じもしますね。
でも、K.620 は魔笛全体の作品番号ですから、「《魔笛》より序曲」と考えるとこの順番で良いことがわかります。
微妙なのは、歌劇《魔笛》の部分です。《魔笛》は、正確に言うとオペラではなくジングシュピール。ジングシュピールはドイツ語で「歌芝居」の意味です。
ジングシュピールとオペラの共通点
- 音楽で物語を展開する
- 大道具小道具や衣装を用い、演技をする
- 歌い手とオーケストラが必要。オーケストラは歌(独唱や重唱、合唱)を伴奏したり、序曲のようなオケだけの曲を演奏する
ジングシュピールとオペラの相違点
- オペラの歌詞はイタリア語だが、ジングシュピールにはドイツ語が使われる
- オペラではすべて歌われるが、ジングシュピールには台詞がある
ジングシュピールとは
ジングシュピールは「ドイツの民族的な喜劇で、歌も入っている簡単な芝居」[注1]。
ドイツでもオペラと言えばイタリア・オペラでした。しかし、1743年にイギリスのバラード・オペラをドイツ風に直した『悪魔は放たれた』という劇が上演され、評判に。次々とバラード・オペラの翻案が上演され、ドイツ人によっても作られるようになりました。
ジングシュピールの中の歌は、初めは普通の役者が歌えるごく簡単なものでしたが、次第に本格的に。やがて、ウィーンでも上演されるようになりました。
ドイツ語圏の人たち、特に庶民にとって、歌詞の意味がわからないイタリア・オペラ(しかも多くは悲劇)を見るよりも、母国語の劇を見るほうが楽しかったでしょうね。
モーツァルトのジングシュピール
つい「オペラ」と一括りにしてしまいますが、《フィガロの結婚》や《ドン・ジョヴァンニ》はオペラ。一方この《魔笛》や《後宮からの誘拐(逃走とも)》はジングシュピールです。
ただ、モーツァルト自身は《後宮からの誘拐》を「3幕のドイツ語のジングシュピール」と呼んだ一方、《魔笛》では「2幕のドイツ語オペラ」と、Oper の語を使っています。初演のチラシ(右)にも、大きな活字のタイトル Zauberflöte の下に、小さく「2幕の大オペラ Eine grosse Oper in 2 Akten」と書かれていますね。
ちなみに、ベートーヴェンの唯一のオペラ《フィデリオ》とか、ヴェーバーのオペラ《魔弾の射手》と呼ぶことが多いのですが、これらも歌詞はドイツ語で台詞入り。喜劇ではありませんが、ジングシュピールの流れを汲んでいます。
注
- 渡辺護「モーツァルトの 〈魔笛〉」『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:歌劇《魔笛》全曲、ジェイムズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団によるDVDの解説』、9ページ。
- Mozart, c. 1781, detail from portrait by Johann Nepomuk della Croce. The Magic Flute, playbill of the first performance on September 30, 1791 at Schikaneder's Theater auf der Wieden in Vienna.
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