072 《魔笛》はオペラ?

2024/04/16

オペラ ジングシュピール モーツァルト 魔笛

t f B! P L


先日、聖フィル次回定期演奏会の曲目表記をチェックしました。

モーツァルト:歌劇《魔笛》K.620 序曲

これでオッケー。ですが、実はこれ、ちょっと微妙なところがあります。どこでしょう? 作品番号と序曲の順番が逆? 

確かに作品番号は普通、最後。モーツァルト:歌劇《魔笛》序曲 K.620 の方が落ち着きが良い感じもしますね。

でも、K.620 は魔笛全体の作品番号ですから、「《魔笛》より序曲」と考えるとこの順番で良いことがわかります。

微妙なのは、歌劇《魔笛》の部分です。《魔笛》は、正確に言うとオペラではなくジングシュピール。ジングシュピールはドイツ語で「歌芝居」の意味です。

ジングシュピールとオペラの共通点

  1. 音楽で物語を展開する
  2. 大道具小道具や衣装を用い、演技をする
  3. 歌い手とオーケストラが必要。オーケストラは歌(独唱や重唱、合唱)を伴奏したり、序曲のようなオケだけの曲を演奏する

ジングシュピールとオペラの相違点

  1. オペラの歌詞はイタリア語だが、ジングシュピールにはドイツ語が使われる
  2. オペラではすべて歌われるが、ジングシュピールには台詞がある

ジングシュピールとは

ジングシュピールは「ドイツの民族的な喜劇で、歌も入っている簡単な芝居」[注1]。

ドイツでもオペラと言えばイタリア・オペラでした。しかし、1743年にイギリスのバラード・オペラをドイツ風に直した『悪魔は放たれた』という劇が上演され、評判に。次々とバラード・オペラの翻案が上演され、ドイツ人によっても作られるようになりました。

ジングシュピールの中の歌は、初めは普通の役者が歌えるごく簡単なものでしたが、次第に本格的に。やがて、ウィーンでも上演されるようになりました。

ドイツ語圏の人たち、特に庶民にとって、歌詞の意味がわからないイタリア・オペラ(しかも多くは悲劇)を見るよりも、母国語の劇を見るほうが楽しかったでしょうね。

モーツァルトのジングシュピール

つい「オペラ」と一括りにしてしまいますが、《フィガロの結婚》や《ドン・ジョヴァンニ》はオペラ。一方この《魔笛》や《後宮からの誘拐(逃走とも)》はジングシュピールです。

ただ、モーツァルト自身は《後宮からの誘拐》を「3幕のドイツ語のジングシュピール」と呼んだ一方、《魔笛》では「2幕のドイツ語オペラ」と、Oper の語を使っています。初演のチラシ(右)にも、大きな活字のタイトル Zauberflöte の下に、小さく「2幕の大オペラ Eine grosse Oper in 2 Akten」と書かれていますね。

ちなみに、ベートーヴェンの唯一のオペラ《フィデリオ》とか、ヴェーバーのオペラ《魔弾の射手》と呼ぶことが多いのですが、これらも歌詞はドイツ語で台詞入り。喜劇ではありませんが、ジングシュピールの流れを汲んでいます。

  1. 渡辺護「モーツァルトの 〈魔笛〉」『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:歌劇《魔笛》全曲、ジェイムズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団によるDVDの解説』、9ページ。
  • Mozart, c. 1781, detail from portrait by Johann Nepomuk della Croce.  The Magic Flute, playbill of the first performance on September 30, 1791 at Schikaneder's Theater auf der Wieden in Vienna.



演奏会情報

演奏会情報
聖光学院管弦楽団第29回定期演奏会

最新コラム

072 《魔笛》はオペラ?

このブログを検索

QooQ