064 なぜヴァイオリンにはフレットが無いのか?? その2

2023/12/19

ヴァイオリン ヴィオラ ピリオド楽器

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なぜ、ヴァイオリン(やヴィオラやチェロやコントラバス)には、ヴィオラ・ダ・ガンバやギターのようなフレットが無いのでしょうか??

前回その答えとして、ヴァイオリンはヴィオラ・ダ・ガンバ(脚のヴィオラ)ではなくヴィオラ・ダ・ブラッチョ(腕のヴィオラ)の子孫だから、と書きました。

でもヴィオラ・ダ・ブラッチョを検索すると、ときどきフレット付きの画像も出てきますね。これは、当時のフレットが可動式であったことと関係しているのではないかと思います。

可動式フレット

ヴィオラ・ダ・ガンバやリュートのフレットは、現在のギターのフレットのように指板にくっついているわけではありませんでした[注1]

ガット弦を、ネックと指板の正しい位置に巻くのです。結び方はシングル・フレット・ノットとダブル・フレット・ノットの2種類(なんだかネクタイみたいですね)

ダブル・フレットは締まりやすいので、ガンバのような弓を使う楽器に適していたそうです。ちなみに西洋楽器のフレットは、通常半音間隔。

図1:ガット弦の結び方。左aがシングル、右bがダブル・フレット・ノット

フレットとヴィブラート

ところで、フレットがあれば音程を取るのが楽になるけれども、ヴィブラートはどうやるんだろう?? と疑問に思った方、いませんか? 

もしかしたら、ヴィブラートをかけにくいから、ヴァイオリン属にはフレットが無いのでは?? と考えた方もいるかもしれません。

音楽事典の Vibrato の項目によると:

ヴィオラ・ダ・ガンバのようなフレット付きの弦楽器では「2本指 two-finger 」のヴィブラート(クローズ・シェイクclose shake またはラングール langueur とも呼ばれる)が使われた。1本目の指は弦の上にしっかりと置き、2本目の指はその近くでトリルのような動きをする[注2]。

えーーっ?!? それってヴィブラートなの?!? 

確かにこれは、私たちが使っているヴィブラートとは異なります。実は、音を豊かにするために常にヴィブラートをかけながら弦楽器を弾くようになったのは、20世紀最初の四半世紀以降[注3]ですから、ヴァイオリン(属)にフレットが無いのは、ヴィブラートとは関係ありません。

最後に、17世紀初頭の絵画に描かれた楽器をご覧ください。右下の楽器のみ、f字孔。ヴィオラ・ダ・ブラッチョですね。

図2:《五感の寓意より聴覚》、部分

  1. リュートや当時のギターの、指板の先のフレットは、木製で響版に接着されていたそうです。図1も含め、Harwood, Ian. "Fret" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 9: 253-252.
  2. Moens-Haenen, G. "Vibrato" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 26: 523-525.
  3. たとえばバロック時代のヴィブラートは、特別な理由がある場合だけ使われる、装飾音の一種と捉えられていました。長岡英『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』アルテスパブリッシング、2004, pp.126 - 130。
  • Jean-Marc Nattier: Madame Henriette de France (部分).  Jan Brueghel I & Peter Paul Rubens: Hearing(1617〜18, 部分). I appreciate AY's comments.

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