第九の楽しみ方のコラムに添えていた、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮の《第九》動画。見慣れない楽器が出てきて、驚かれた方も多いのではないかと思います。Orchestre Révolutionnaire et Romantique、いわゆる「古楽器」オーケストラによる《第九》です。
ピリオド楽器
古楽と言うと、バロック音楽以前というイメージが強いかもしれません。でも、ベートーヴェンが生きていた18世紀末から19世紀初頭にかけて使われていた楽器も、現在私たちが見たり演奏したりするものとは大きく異なります。その時代の楽器「ピリオド楽器」という呼び方もあります。
モダン楽器との違い
違いがわかりやすいのは、ホルン。ぐるぐるした管だけですね。ナチュラル・ホルンと呼ばれます(図1参照)。
図1:ホルンとクラリネット |
トランペットも同様に、バルブ無しのナチュラル・トランペット。出せるのは自然倍音だけです。
フルートやピッコロも金属製ではありません。そう言えばフルートって木管楽器だった! と思い出させてくれます。オーボエやクラリネットも黒ではなく木の色(図1参照)。
ファゴットは現在の楽器に似ていますが、コントラファゴットはずっと長いですね( 017 コントラファゴットは真っ直ぐだった!参照)。
木管楽器は、現在よりも少ないキーしか付いていません。
トロンボーンは現在の楽器とほぼ同じ形。でも、第4楽章教会風音楽を先導するバス・トロンボーンを見ると、現在よりもベルが小さく、スライドが長いためハンドルで動かしていることがわかります(図2参照。モダン楽器と区別するため、「サックバット」と呼ばれます)。
図2:トロンボーン |
ティンパニのマレットは木製。
管楽器打楽器に比べると、弦楽器は現在とあまり変わらないように見えます。でも、よく見るとヴァイオリンなどの肩当てを使っていません。肩の上にのせて弾いている感じで、あご当ても無いようです。
動画で見分けられる違いだけでも、このようにたくさんあります。
対向配置
弦楽器の配置は、ファースト・ヴァイオリンとセカンド・ヴァイオリンが手前で向かい合う対向配置。向かって左からファースト、チェロ、ヴィオラ、セカンドで、左の後ろにコントラバスがいます。古典配置、両翼配置などとも呼ばれます(が、20世紀まで使われていました。古典派時代の配置ではありませんので念のため)。
スケルツォのフガートの順番
《第九》第2楽章スケルツォの5声フガートは、セカンド、ヴィオラ、チェロ、ファースト、コントラバスの順。対向配置の右側のパートから順番に加わる形で作曲されています。
立奏
第4楽章はヴァイオリンとヴィオラが立奏していますね。座らなければ演奏できない楽器以外、立って演奏するのが普通でした。ただ《第九》は長いので、ガーディナーさん、部分的に立つことにしたようです。ベートーヴェンがイメージした響き
バロック時代の楽器よりもキーが増えるなど改良されているものの、モダン楽器に至るのはまだまだ先。でも、ベートーヴェンが作曲するときに思い浮かべたのは、彼の時代のオーケストラ。改良が進み、音色が安定し音量が豊かになった現在の楽器の響きではありません。
ときにはピリオド楽器で奏でる《第九》で、ベートーヴェンがイメージした響きを楽しんでくださいね。
注
- Portrait by Joseph Kar l Stieler, 1820. https://youtu.be/rJH9b9EQtHM Orchestre Révolutionnaire et Romantique, John Eliot Gardiner, 2020. 図1と図2も同動画から。
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