一般大学の西洋音楽史の授業で、古楽器ヴィオラ・ダ・ガンバにはフレットがあったと教えたら、なぜヴァイオリンにはフレットが無いのかと質問されました。きっと、ヴァイオリンにもギターのようにフレットがあれば音程が安定して、もっと弾きやすいだろうと思ったのでしょう。
考えてみるとこれ、難しい質問です。
いったいなぜ、ヴァイオリン(やヴィオラやチェロやコントラバス)には、ヴィオラ・ダ・ガンバやギターのようなフレットが無いのでしょうか??
ヴィオラ・ダ・ガンバについて
まず初めに、フレットを持つヴィオラ・ダ・ガンバ viola da gamba について考えてみましょう。「ガンバ」は、イタリア語で「脚」の意味。チェロのように縦に構え、膝に挟んで(と言うか、ふくらはぎに乗せる感じで)弾きます(上のナティエ『王女アンリエットの肖像』参照)。
ちなみにヴィオラ・ダ・ガンバの「ヴィオラ」は、残念ながら現在の(ヴァイオリンより一回り大きくて、楽譜をハ音記号で記譜する)ヴィオラではありません。
ヴィオラという語は、ヨーロッパで中世以来、擦弦楽器の総称として使われました[注1]。弦楽器のイタリア語名も、全てこのヴィオラに由来します。
- ヴァイオリン violino = viola + イタリア語で縮小の意味を表す接尾辞 -ino [注2]→小さいヴィオラ
- コントラバスのご先祖ヴィオローネ violone = viola + 増大の接尾辞 -one [注3]→大きいヴィオラ
- チェロ violoncello = 大きいヴィオラ violone + 縮小の接尾辞 -cello →小さい、大きいヴィオラ
Bassviol (Viola da Gamba), 7 strings, Uilderks |
ヴィオラ・ダ・ガンバとヴァイオリン
ヴィオラ・ダ・ガンバ(英語ではヴィオール)とヴァイオリンと比較すると、構え方以外にもいろいろな違いがあります。
- 撫肩
- 裏板が平ら
- 響孔がC字型(C字孔と言います)
- 弦が多い(6本あるいは7本)
- フレットがある
- 調弦が4度と3度
- 指板が短い
- 弓を下から握る
Viola da gamba from Syntagma musicum |
ヴァイオリンのように構える古楽器は、ヴィオラ・ダ・ブラッチョ viola da braccioと呼ばれます。ブラッチョはイタリア語で「腕」の意味。こちらがヴァイオリン(属)のご先祖様です。
なぜ、ヴァイオリンにはフレットが無いのか??
私が答えとして考えついたのは、「ヴァイオリンはヴィオラ・ダ・ガンバではなく、ヴィオラ・ダ・ブラッチョの子孫だから」でした。ヴィオラ・ダ・ブラッチョは、フレットが無い図像がほとんどです(次回に続く)。
Viola da braccio in detail from a fresco by Gaudenzio Ferrari |
注
- 長岡英『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』アルテスパブリッシング、2004, pp.130 - 133。
- たとえば、アンダンテ Andante →アンダンティーノ Andantino のように。
- たとえば、トロンバ tromba(らっぱ)→トロンボーネ trombone(大きなラッパ、トロンボーン)のように。
- Jean-Marc Nattier: Madame Henriette de France (部分).
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