聖フィル♥コラム恒例だった、「クリスマスに聴きたい音楽」シリーズ。リニューアルでも続けます。ヨハン・ぜバスティアン・バッハのクリスマス音楽はいかがでしょうか。
ぱっと浮かぶのはクリスマス・オラトリオですが、既に取り上げましたので(現在、古いコラムにアクセスできなくて申し訳ありません)、今回はクリスマス用の教会カンタータを選びました。
Gelobet seist du, Jesu Christ(あなたを讃えよう、イエス・キリスト)BWV 91
1724年の降誕祭第1日、つまり12月25日の礼拝で初演(降誕祭は25日だけでなく、3日間祝われました)。バッハがライプツィヒのカントルになって最初に作曲した、クリスマスのカンタータです。
4人の独唱者(ソプラノ、アルト、テノール、バス)、混声四部合唱、2 Hr、Timp、 3 Ob、Vn 2部、Va、通奏低音という編成。喜びに満ちた日にふさわしく、2 Hr、1 Ob、Timp を増やしています。
コラールについて
核になっているコラール(コラールとは何か②参照)は、マルティン・ルターが作曲したコラールのうちのひとつ(コラールとは何か①参照)Gelobet seist du, Jesu Christ。1524年に出版されたヴァルターの Eyn geystlich Gesangk Buchleyn に収められました。
"Gelobet seist du, Jesu Christ" in Walter's Eyn geystlich Gesangk Buchleyn |
バッハがこのカンタータを作ったのは、コラールが出版されてからちょうど200年後ですね。
ルターは15世紀から北ドイツに伝わる1節(クリスマスの真夜中のミサのための、ラテン語のセクエンツァに由来するもの)に6節を加え、拡大しました。全7節のうち第1節と最終節は、カンタータでそのままで歌われます。
カンタータの構成
バッハはこの教会カンタータを、6曲構成(ちょっと小振り)にしました。
- コラール Gelobet seist du, Jesu Christ
- レチタティーヴォ(とコラール、ソプラノ)Der Glanz der höchsten Herrlichkeit
- アリア(テノール) Gott, dem der Erden Kreis zu klein
- レチタティーヴォ (バス) O Christenheit! Wohlan
- 二重唱アリア (ソプラノとアルト) Die Armut, so Gott auf sich nimmt
- コラール Das hat er alles uns getan
まず第6曲、4声のカンツィオナル様式(②参照)のコラールを聴きましょう。第7節の歌詞で歌われます(以下、日本語の歌詞は小林英夫訳[注1])。
私たちのために神のなされた業は すべて、
神の大きな愛を示しています。
それゆえ喜びなさい、キリストに従う者は皆、
永遠に神に感謝を捧げなさい。
キリエライス[注2](主のあわれみを)。
1曲目においては、このコラール旋律が第1節の歌詞で、ソプラノによって歌われます。クリスマスにふさわしい歌い出しです。
あなたに賛美あれ、イエス・キリストよ、
あなたは人として生まれて来られました。
あなたの母が乙女であったのは確かなこと、
それゆえ天使の群れも喜んでいるのです。
キリエライス(主のあわれみを)。
2曲目(3:09〜)のレチタティーヴォでは、コラール第2節の歌詞がそれを説明するような自由詩によって拡大されます。コラールの歌詞はコラールの旋律で歌われます。
また、第3節と第4節を第3曲(4:52〜)のアリアに、第5節を第4曲(7:31〜)のレチタティーヴォに、第6節を第5曲(8:47〜)の二重唱アリアに書き換えています(コラール以外の詩の作者は不明)。
バッハのクリスマス
プロテスタント教会における教会カンタータは、牧師による説教を音楽で解き明かすもの。ライプツィヒの聖トーマス教会カントルとして、バッハは日曜日やクリスマスなどの礼拝のために、教会カンタータを用意し続けました。
街に流れるクリスマス・ソングが気持ちを浮き立たせてくれる季節ですが、この動画を見ながら少しのあいだ、およそ300年前のライプツィヒのクリスマス礼拝で、バッハが、イエス・キリストの降誕を祝うカンタータ Gelobet seist du, Jesu Christ を指揮する、厳かで喜びに満ちたシーンを想像してみてください。
注
- バッハの教会カンタータ対訳一覧表(http://www.kantate.info/cantata_translation_list.htm)より。
- このコラールの節は全て、キリエライス Kyrieleisという聞き慣れない言葉で終わっています。これは、カトリックのミサ曲の第1楽章キリエの中の「キリエ・エレイソン(主よ、あわれみたまえ)」というギリシア語の、4音節形だそうです(Wikipedia 英語版の「Kyrie」による)。
- Martin Luther (1529) by Lucas Cranach the Elder. https://youtu.be/u5ejYj69LpY Philippe Herreweghe, Collegium Vocale Gent. 2016, Saint-Roch church.
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