097 ブラ4の聴きどころ③ フリギア旋法とブラームス

2025/08/05

ブラ4. ブラームス 交響曲

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ブラ4の解説には、ブラームスが第4楽章にシャコンヌ(パッサカリア)を使った(096  シャコンヌの元歌参照)こととだけでなく、第2楽章にフリギア旋法を使ったことも、必ず書かれています。今回はそのフリギア旋法について。

フリギア旋法とは何か

フリギア旋法は8種類ある教会旋法のうちのひとつ。西洋音楽のルーツであるグレゴリオ聖歌(キリスト教のお経と考えてください)を体系化する8つの分類のうちのひとつです。終止音(聖歌が終わる音。始まる音とは限らない)から半音、全音、全音、全音、半音、全音、全音の間隔で音が並ぶので、ちょうどミから白い鍵盤を1オクターヴ上がったのと、同じかたちになります(譜例1)。

譜例1:フリギア旋法

このような終止音から終止音までの1オクターヴの音域(アンビトゥス)を持つ旋法を、正格旋法と呼びます。同じミを終止音とする教会旋法には、ヒポフリギア旋法もあります。こちらは終止音を中心にした1オクターヴの音域を持ち、変格旋法と呼ばれます[注1]。 

フリギア旋法はどこに使われているか

使われているのは、第2楽章冒頭の4小節。ホルン3、4番がユニゾンで旋律を吹き始め、次の小節からはクラリネット以外の木管楽器が加わる部分。ここがフリギア旋法。

シャープ4つのホ長調の調号ですが、ホルンはC管ですし、フルート、オーボエ、ファゴットはナチュラルが付けられて、シャープが全てキャンセルされています。つまり、この部分はホ長調ではなくなり、フリギア旋法になっています。

譜例2:ブラームス交響曲第4番第2楽章冒頭部

フリギア旋法を含む教会旋法は、グレゴリオ聖歌のための体系。そのグレゴリオ聖歌は、モノフォニー(単旋律。ひとつの旋律を複数で歌っていました)。ブラームスもここをユニゾンにしています。そして、クラリネットとファゴットによるミ、ソ#、シの和音が響く4小節目の後半(青い↓のところ)から、ホ長調の世界へ。

なぜ教会旋法を使ったのか

ブラームスは、一般に保守的な作曲家と考えられています。当時流行っていた標題音楽や劇作品を一切作らず、交響曲や協奏曲、室内楽など、古典派のジャンルを得意としていたことや、変奏や対位法など、古くから存在する作曲法を使って代表曲を作ったことなどが、その理由。

ブラ4終楽章のパッサカリアは、古典派を通り過ぎてバロック時代の作曲法を使った例、この第2楽章のフリギア旋法の使用は、バロック時代をさらに通り越して中世まで遡った例とみなされます。

ブラームスは確かに保守的な側面もありますが、古典派時代に完成されたソナタ形式を様々に変形していることは、既にあげたとおりです(ソナタ形式の崩し方  008009010参照)。ブラ4の終楽章は、パッサカリアの変奏技法を厳格に使用しながら、同時にソナタ形式にも落とし込める二重構造を持つことが重要なポイント。とてもチャレンジングな構成の楽章に仕上げています。

「革新主義者ブラームス」

第2楽章でのフリギア旋法の使用も、長調・短調以外の音階を使うことで得られる新しい響きを求めたと考えられます。

教会旋法は、長音階や短音階と半音の位置が異なります。また、7番目の音(長短調では導音)と8番目の音(主音)の間隔が、半音とは限りません(フリギア旋法の7番目と8番目の音の間隔は、全音)。

そのため、長調・短調の音楽に慣れ親しんでいる私たちには終止感が薄く、音の並びが予想に反するため、逆に新鮮に聞こえます。ブラームスは、旋法が与えるちょっとした「違和感」を利用しようとしたのでしょう。

1933年、ブラームス生誕100年に際してシェーンベルクは、「革新主義者ブラームス Brahms The Progressive」と題した講演を行いました。ブラ4にもこのように、ブラームスの革新的ポイントがあちこちに隠されています。

  1. グレゴリオ聖歌の分類に使われた教会旋法は、レ、ミ、ファ、ソの4音を終止音とする正格旋法と変格旋法の8種類。グレゴリオ聖歌は元々、お経のようなキリスト教のお祈りの文言に、簡単な節をつけたもので、旋法による分類は後付けでした。そのため、これら8種類に分類できない聖歌もあります。

  • Johannes Brahms portrait 1889. 譜例1は https://youtu.be/Bca-_Fo3vjo?si=sGb8iyInre2pk8nK を改作。

演奏会情報

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聖光学院管弦楽団第32回定期演奏会

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