第2主題を敢えて目立たないように作り(009 ソナタ形式の崩し方:ブラ1第1楽章の第2主題参照)、展開部と再現部の境目を徹底的に隠した(008 ソナタ形式の崩し方:ブラ1第1楽章再現部参照)ブラームスの交響曲第1番第1楽章。交響曲(に限りませんが)の第1楽章は、ソナタ形式で作るのがお約束。しかし、自分は古典派の作曲家たちと同じ方法でソナタ形式を使わない!という、ブラームスの意志を感じさせます。
それでは、同じくソナタ形式を使っている第4楽章はどうでしょうか?
ブラームス:交響曲第1番第4楽章
長〜い、でも良く練られた序奏部の後、シンプルで印象的な第1主題がハ長調で始まります。「民謡のよう」と表現されることも多いですね。第九の《歓喜の歌》の中の1小節がはめ込まれていることも知られています。
第2主題はお約束どおり、5度上のト長調が確立されてから。4分音符による4度の順次下降(ドシラソ)のバッソ・オスティナートの上で奏されます。古典派の第2主題に見られるような dolce の指示。第1主題との性格の違いを押し出しています。
第1楽章であれだけ避けた、正統的な古典派のソナタ形式で作られた提示部が(逆に)意外ですが、その後に驚きが。
展開部が無い!
提示部が練習番号Hで終わり、ぽーぽーーと和音が響く中、3小節後に第1主題が主調のハ長調で戻ってくるのです。その後、第2主題も約束通り主調のハ長調で再現されます(40:49〜)。
ソナタ形式の展開部はもともと、提示部と再現部をつなぐブリッジ。短いものでした。モーツァルトの最後の5つの交響曲(旧番号第36、38〜41番)ですら、第1楽章における展開部の小節数は、平均で提示部の51%[注1] 。半分に過ぎません。
展開部が作曲家の腕の見せどころになったのは、ベートーヴェン以降です。
その重要な展開部を省略してしまったブラームス、どこで腕を見せるのでしょう? 心配ご無用。
第4楽章における再現部は「展開的再現部」
第1主題を主調で再現した後、第2主題が始まる前に、主題動機労作によるかなり長い、まるで展開部のような部分が続きます[注2]。
展開部を省いた代わりに、ここで展開しながら再現しているのです(そのため、第1主題の再現部分からを展開部、第2主題からを再現部とみなし、「第1主題の再現を欠くソナタ形式」とする分析も存在)。
展開部と再現部双方の性格をもつ「展開的再現部」
長い序奏部、正統的な提示部の後に、展開部と再現部双方を重ねて凝縮した後半部分を配置したブラームス。
それぞれの性格の違いを際立たせた2つの主題を規則どおりの調性で提示&再現する一方、誰もがあっと驚く展開的再現部を用いたことで、密度の濃い圧倒的なフィナーレとなっています。
注
- 平野昭「ベートーヴェンの交響曲」『ベートーヴェン事典』東京書籍、1999、31ページ。第37番はミヒャエル・ハイドンの作品であるための除外。
- 「展開的再現部」という用語を含め、三宅幸夫『ブラームス:交響曲第1番ハ短調作品68、ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2003、pp.ix-xを参照。
- Johannes Brahms portrait 1889. https://youtu.be/r8LhN7GN3q0 Simon Rattle, the Berliner Philharmoniker.
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。