前回(120 カプースチンの変奏曲 op. 41①参照)に引き続き、方 大樹さんのアンコール曲、カプースチン作曲変奏曲op. 41について。
卒業後の経歴
1961年モスクワ音楽院卒業後、カプースチンはオレグ・ルンドストレム国立室内ジャズ管弦楽団、1972年からボリス・カラミシェフ率いる「ブルー・スクリーン」管弦楽団、1977年から名門のロシア国立映画交響楽団で活動しました[注1]。
1984年オーケストラを辞め、フリーランスの作曲家に。同年、ピアノ・ソナタの連作を始め(2011年までに20曲が作られます)、彼の代表作とみなされるようになる《8つの演奏会用練習曲》op. 40とこの《変奏曲》op. 41、1988年には《ジャズ様式による24の前奏曲》op. 53を作曲しました。
クラシックの作曲家という自負
ジャズの楽団でピアニスト・編曲家を務めたカプースチンの音楽は、即興演奏的な響きをもっています。しかし彼はきわめて几帳面にあらゆる音符、アーティキュレーション、そして細かなニュアンスに至るまで書き記しました。彼は自らがクラシックの作曲家であり、自作品は即興を加えることなく、楽譜に記されたとおりに演奏されるべきだと主張したそうです。
変奏曲の主題と《春の祭典》
変奏曲 op. 41は、主題と6つの変奏から成ります。変ニ長調によるユニゾンの短い序奏に続く32小節の主題について、ジェド・ディストラーは、
ストラヴィンスキーの《春の祭典》冒頭のファゴット独奏モティーフをジャズ風に変形したもの(いわば「スウィングの祭典」とでも呼ぶべきだろうか!)と、ブルース風の下降音型との間を行き来する。カプースチンは、このストラヴィンスキー由来の主題に対し、小節内あるいは小節線をまたぐ微妙なリズムのずらしを加えている。
と解説しています[注2]。言われてみると確かに、あの高音域のファゴット・ソロに似ているかも。
変奏
主題を受け継いだ第1変奏(動画の1:15くらいから)は、左手が語るように三連符や付点リズムを弾く部分と、歩くように四分音符で和音を刻む部分が交代します(この部分では、右手が左手より低い音域で旋律を演奏)。
最後の方の右手の16分音符の動きが、第2変奏(2:17〜)でも受け継がれます。左手は幅広い音域で、スウィングのパターンを反復。
その後、ひとつめの経過部(3:17〜)。フラットが一つに減り、左手の8分音符(ウォーキング・ベース)に乗って右手が忙しげに動き回ります。
3拍子に変わって素早く動き回る第3変奏(3:24〜)へ。2つ目の経過部(4:13〜)が続き、シャープ4つに転調して次第に遅くなります。短調、larghettoのしっとりとした第4変奏(4:26〜)。
短いカデンツァの後、変ニ長調4拍子に戻り、プレストの第5変奏(5:44〜)へ。最後の第6変奏(6:08〜)でも鮮やかなパッセージが散りばめられ、華やかにご機嫌に締めくくります。
カプースチンのこの曲、聴くだけで「変奏曲」と気付くのはかなり難しいと思います。でも、多くの作曲家にインスピレーションを与えたパガニーニの「主題と変奏」に基づくラフマニノフのラプソディー(119 パガニーニの主題による狂詩曲の聴きどころ:元歌とその後参照)演奏後のアンコールとして、最高の選曲でした。
注
- 前回のコラムと同様今回のコラムも、主に Wikipedia 英語版に基づきます。この英語版の記述の多くは、Tyulkova, Yana, Conversations with Nikolai Kapustin. Mainz: Schott 2019; ISBN 978-3-95983-590-9 を注としてあげており、信頼できると考えられます。
- Jed Distler, Introduction, Hyperion Records より。https://www.hyperion-records.co.uk/dw.asp?dc=W4095_GBAJY0443301
- Photograph of Ukrainian composer Nikolai Kapustin, 1937-2020. Taken in 2014, by Peter Andersen. https://youtu.be/j4S81BNlLrc?si=DEy5yWF_7spARMyV Nikolai Kapustin: Variations for Piano, op. 41 (1984). Played by Nikolai Kapustin. カプースチンは1985年以降、決定的な解釈を後世に残すため、自作品を自ら演奏・録音しています。

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