ラフマニノフ作曲ピアノ独奏とオーケストラのための《パガニーニの主題による狂詩曲》。この曲をコラム1回で説明するのは難しいので、今回はパガニーニの主題を中心に書きます。
ニコロ・パガニーニとは?
1782年イタリアのジェノヴァ生まれ。港湾労働者でアマチュア音楽家だった父からマンドリンやヴァイオリンの最初の手ほどきを受け、やがて並外れたテクニックと圧倒的なカリスマ性を身に付けたヴァイオリニストになりました。彼のような名人芸を持つ演奏家を「ヴィルトゥオーゾ」と呼びます。パガニーニはヴァイオリン・ヴィルトゥオーゾの代表格。イタリアはもちろんオーストリア(シューベルトも聴きに行きました!)、ドイツ、フランス、イギリスなどでツアーを行いました。
あまりにもアクロバティックで超人的な演奏技巧(後述)と、痩せた異様な外見やそれを強調するような演出により、「悪魔に魂を売った」という噂が広まったそうです。
パガニーニの〈主題と変奏〉
パガニーニは作曲家として、無伴奏ヴァイオリンのための《24のカプリース》や、多くのヴァイオリン協奏曲を残しました。カプリース(仏)、カプリッチョ(伊)は「気まぐれ」という意味で、日本語では「奇想曲」と訳されます。
「規則に縛られず、自由な想像力や奇抜な発想によって作られた」とでも言うべき、超絶技巧の小品集ですが、中でも有名なのが、最後の第24番〈主題と変奏〉!
4小節を繰り返す前半と、8小節の後半から成る主題に基づく11の変奏には、速いアルペジオ、オクターヴ、高音域、重音など様々な技巧が使われています。
中でもアクロバティックなのが、弓奏と左手のピッツィカートを用いる第9変奏。ピッツィカートは普通、右手で弦を弾きますが、弦を押さえている左手の指で弾(はじ)くのです。楽譜上の+が、左手のピッツィカートの印です。
フランツ・リスト
1832年4月にパリでパガニーニの演奏を聴いたフランツ・リストは、パガニーニのような偉大な、ピアノのヴィルトゥオーゾになることを決意。ピアノの超絶技巧を極めます。1838年、6曲から成る《パガニーニによる超絶技巧練習曲》(後に難易度を落として改訂し《パガニーニによる大練習曲》と改題)を出版しました。第6番が、先程のカプリース第24番のピアノ版です。
オリジナルに忠実ですが、楽器の特性に合わせて、たとえば主題では各小節の最初の音が和音付けされています。広い音域の和音や大きな跳躍、長いトリルなど、ピアノならではの高度な技巧を盛り込んでいます。
ヨハネス・ブラームス
ブラームスの《パガニーニの主題による変奏曲》は、1863年に作曲された2巻の変奏曲。同じ主題(リストと異なり、ユニゾンで左手も重ねます)とそれぞれ14変奏から成ります。ピアノ独奏用ですが、規模が大きくなりました。
セルゲイ・ラフマニノフ
《パガニーニの主題による狂詩曲》はリストやブラームスとは異なり、ピアノとオーケストラのための作品。協奏曲的ですが、単一楽章で、主題と24の変奏曲から成ります。1934年に作曲・初演(独奏はラフマニノフ自身。狂詩曲(ラプソディー)については、025 ラプソディーとは何か を参照)。ラフマニノフの聴きどころ①
短い序奏部の後、主題の前に、主題のバス声部だけが示されます。ベートーヴェンの英雄交響曲の終楽章と似ていますが、ここではバス声部も主題の輪郭を描いています。これが第1変奏(動画の 0:11 くらいから)。パガニーニの主題は、第1変奏の後に置かれます。
ラフマニノフの聴きどころ②
第7変奏でピアノにより、Dies irae(怒りの日)のグレゴリオ聖歌が静かに登場します。これは、死者のためのミサ曲(レクイエム)に用いられるセクエンツァ。ロマン派の作曲家によって、死の象徴として用いられるようになりました。ベルリオーズの《幻想交響曲》終楽章、サン=サーンスの交響詩《死の舞踏》、チャイコフスキーの幻想序曲《ロメオとジュリエット》などにも用いられています。
パガニーニの主題とは特に関係ありませんが、イ短調の変奏が続く中、この有名な旋律が区切りのように用いられます。
ラフマニノフの聴きどころ③
唐突に現れる有名な甘い旋律(第18変奏)。「パガニーニの主題の反行形=鏡に写した形」で、ちゃんと「変奏」になっています。高揚感・幸福感に酔う、夢のような短い長調部分です。
その後のパガニーニ
ご紹介したい演奏や作品はたくさん有るのですが、厳選して4つだけ挙げます。それにしても、後世の作曲家によってこれほど取り上げられた曲は、例がありません。パガニーニの〈主題と変奏〉、不思議な曲です。ヴィトルト・ルトスワフスキー
ポーランド生まれのルトスワフスキー(1913〜1994)による、《パガニーニの主題による変奏曲(1940〜1941)。ピアノ2台がオリジナルで、後にピアノとオーケストラ版に編曲されました(1978)。一柳 慧
一柳(1933〜2022)によるマリンバとピアノのための《パガニーニ・パーソナル》。1982年の作品で、後にマリンバとオーケストラ用にも(1983〜86)。アルフレート・シュニトケ
ソ連生まれのユダヤ系作曲家シュニトケ(1934〜1998)による《ヴァイオリン独奏のためのパガニーニ A Paganini》(1982)。どこがパガニーニ?!?ファジル・サイ
トルコ生まれのピアニスト、ファジル・サイ(1970〜)は、作品表によると1988、1980、1995年作の3版の《パガニーニ・ジャズ》を作っています。- Rachmaninoff in 1921, Kubey-Rembrandt Studios (Philadephia, Pennsylvania).
- Paganini: Leonidas Kavakos. https://youtu.be/v279AZE05mg
- Liszt: . https://youtu.be/92cd30ztO88?si=IWgmNHwJqfwn6FRK
- Brahms: (Kissin). https://youtu.be/1EIE78D0m1g?si=DcYPGmvaGFMBUrU4
- Rachmaninov: Anna Fedorova, Philharmonie Südwestfalen, Gerard Oskamp. https://youtu.be/ppJ5uITLECE?si=i10dHMd6Ai7cJwv6
- Lutoslawski: Martha Argerich, Nelson Freire. https://youtu.be/vsQo0z5CqM8?si=6kG2C1GHNioq3g48
- Ichiyanagi: Baku Nakata, Rie Sai. https://youtu.be/SFb-1PAAymY
- Schnittke: Gidon Kremer. https://youtu.be/jwDYgWdAnvU
- Say: Fazil Say. https://youtu.be/okl7_SDhVSU



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