目前に迫った聖フィル定期演奏会。
メインであるラフマニノフのピアノ・コンチェルト第3番の聴きどころは、言うまでもなく福間洸太朗さんのソロ。ただただ福間さんの素晴らしいピアノ・テクニックと美しい響きを味わう。それだけで十分!!!なのですが。
以前、共演者宮田大さんのソロ以外の、ドヴォコンの聴きどころについてコラムを書いたように、今回もラフ3の福間さんのソロ以外の聴きどころを考えてみました。
ラフ3におけるオーケストラ
ドヴォコンに比べると、ラフ3におけるオーケストラの比重はあまり大きいとは言えません。ドヴォコン(や古典派の協奏曲)と異なり、ラフ3はメンコンのように、いきなりソロ楽器が第1主題を演奏するパターンだからです。
比重は大きくないのですが、実はオケは大変。有名なラフマニノフの第2番のピアノ・コンチェルトに比べると、オーケストラ書法がずっと複雑で絡みが多く、演奏が難しいのです。一方で、オーケストラが表に出る部分はあまりありません。あくまで控えめです。
というわけで今回は、作曲者ラフマニノフが工夫したポイント、すなわち聴衆に気づいて欲しい(であろう)ポイントについて書きます。
ラフ3のキー・フレーズ
第1楽章冒頭。オケのつぶやくような2小節の序奏「れーーみ れーーみ れーーみ れーーみ れ」が始まります(譜例1 [注1])。
譜例1:第1楽章冒頭 |
この後すぐに独奏ピアノが加わり、両手のユニゾンで静かに第1主題を演奏(譜例2)。
譜例2:第1楽章第1主題 |
素朴な旋律ですね。最初の「れ」の音の周りを上がったり下がったり。最初の2つの音以外は、全て隣の音に動く順次進行でできています。2小節目には、先程の序奏「れーーみ」のモティーフaも含まれていますね。
ちなみに第2主題(これも、独奏ピアノが演奏します。104小節)にも付点リズムが含まれます(譜例3)。こちらは「れーーみ」ではなく「れーーど」a'です。
譜例3:第1楽章第2主題 |
第1主題は何回登場するか
話を第1主題に戻しましょう。「れーーみ れーーみ れーーみ れーーみ れ」と第1主題は、この楽章で3回出てきます。2回目に出てきたところからが展開部、3回目に出てきたところからが再現部です。
ただ、楽章のちょうど真ん中あたりで始まる2回目はともかく、3回目に出るのは楽章がほとんど終わるところ。まるでコーダのようです[注2]。
3回の第1主題を聴き取るのは難しくありません。でも実はこのメロディー、少し形を変えて第1楽章にもう1回登場します。
カデンツァにおける第1主題
それは、第1楽章後半の長いピアノのカデンツァの途中。ラフマニノフは2種類のカデンツァを書きました。
Ossia(イタリア語で「あるいは」の意味。英語の or にあたります)と書かれた難しい方のバージョンの、部厚い和音が続く部分において、外声(=棒が上に向いている和音の、一番上の音)が、「れーーみ」の付点リズムaで第1主題をなぞっています(譜例3。最初の「れ」は前の小節)。
ピアノがものすごく格好良いところですから、うっとりしてしまって聴き逃さないでくださいね。
譜例4:第1楽章カデンツァの一部 |
後続楽章における第1主題
この第1楽章第1主題は、後の楽章にも顔を出します。第2楽章137小節からのクラリネットとファゴットの3/8拍子の旋律が、第1楽章第1主題の変形。
ピアノの速いパッセージに意識が集中しがちですが、注意して聴き取ってみてください。リズムは異なるものの、音の並びが完全に一致しています。
とすると、終楽章にも出てくるのではないかな?!? そうです!!! 第3楽章201小節から、第1主題の変形が登場します(ヴィオラとチェロ)。
こちらは音の並び(音程)も拍子も異なりますが、途中まで輪郭が似ていてリズムも一致します。そして、その後に続いて第1楽章の第2主題も登場(207小節、練習番号55、Lentoのピアノの上声。動画では33:28くらいから)。
ラフマニノフの工夫
ラフマニノフは一見地味な(!?!)第1楽章第1主題に対して、3つの楽章に統一感を与える役割を担わせました。
福間さんのピアノ・ソロの圧倒的な名人芸を最大限に楽しみながら、楽曲全体の構成に対するラフマニノフの工夫も、見逃さないであげてくださいね。
注
- 譜例1〜3は中島克麿『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30、ミニチュア・スコア解説』全音楽譜出版社、2022、9ページの譜例をもとに作成。
- 提示部と展開部、再現部の区切りに同じ音楽を使うのは、チャイ4の第1楽章と同じですね。ただ、こちらは第1主題ではなく「運命の主題」で区切られている、より凝った作りです。
- Rachmaninoff in 1921, Kubey-Rembrandt Studios (Philadephia, Pennsylvania). https://youtu.be/33QV6BcFNJ0?si=8f8qMDyn2x4M85Cp Arcadi Volodos, James Levine, Berlin Philharmonic Orchestra, 2000.
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