094 ボッケリーニとメヌエット

2025/04/15

チェロ 室内楽

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前回のコラム093 ベートーヴェンとバレエで、《プロメテウスの創造物》の音楽は「サルヴァトーレ・ヴィガノが、自分で作るはずだった。なぜならヴィガノの母方の伯父はルイジ・ボッケリーニで、少年期から専門的な音楽教育を受けていたから」と書きました。

ではそのボッケリーニって、どんな作曲家だったのでしょう? 

がベートーヴェンと同時期に活躍していたのですから、古典派の作曲家ですね。というわけで、鈴木ヴァイオリン教本の第2巻、篠崎バイオリン教本では第3巻に登場する、有名な《ボッケリーニのメヌエット》を作ったボッケリーニさんについて、調べてみました。

ボッケリーニと家族

1743年に、イタリアのルッカで生まれました。1732年生まれのハイドンと、1756年生まれのモーツァルトの真ん中あたりです。ルッカには100年ちょっと後に、プッチーニが生まれます。

父レオポルトは、歌手兼コントラバス奏者として活動[注1]。ルイジは5人兄弟の3番目ですが、兄弟たちはいずれも早い時期から、芸術的才能を発揮したようです。

兄ジョヴァンニ・ガストーネは、イタリアのみならずウィーンでも活動したバレエ・ダンサー。その後キャリアを転換し、オペラの台本作者になりました。ウィーンでサリエリやハイドンにも台本を提供したそうです。

姉のアンナ・エステルも、イタリア各地やウィーンでバレエ・ダンサーとして活躍。彼女はダンサー兼振付師だったオノラート・ヴィガノと結婚しました。生まれた息子が、上記のサルヴァトーレ・ヴィガノです。

妹アンナ・マティルデもバレリーナとしてウィーンで活動。下の妹リッカルダはオペラ歌手になりました。

ボッケリーニとチェロ

ルイジはルッカの神学校で、楽長でチェリストのドメニコ・フランチェスコ・ヴァンヌッチから音楽教育を受けました。その後、父とともにウィーンで、劇場オーケストラのメンバーとしてバレエ音楽などを演奏しています。

ルッカはもちろんウィーンやフィレンツェ、モデナでチェロのソロ・コンサートを開きました。ただ、当時のウィーンやイタリア各地では、チェロのヴィルトゥオーゾとしての活動だけで生計をたてることはできませんでした。彼は室内楽の演奏家として、そして作曲家として活動しました。

1787年作成の所有物目録によると、ストラディヴァリウスのチェロを2つ持っていたそうです。

ボッケリーニとスペイン

1768年、ボッケリーニはマドリードに渡り、1770年にスペイン国王の弟ドン・ルイス・アントニオに雇われました。翌1771年以降、彼の最も特徴的で重要な編成となる、弦楽五重奏曲が作られるようになります。

ボッケリーニの弦楽五重奏曲は、モーツァルトも作ったようなヴァイオリンとヴィオラが2つずつとチェロという組み合わせではなく、ヴァイオリンとチェロが2つずつ。

このちょっと特殊な組み合わせは、ドン・ルイスが1771年に、弦楽四重奏団を雇ったことが発端です。ボッケリーニは彼らのために数多くの曲を作りましたが、ときにはボッケリーニ自身が彼らと一緒に演奏することもありました。チェロが2つの編成は、そのためと考えられています。

例の《ボッケリーニのメヌエット》は、実はこの弦楽五重奏曲のひとつ。1771年に作曲された6曲セット作品11の、5曲目の第3楽章です[注2]。ファースト・ヴァイオリンが気持ち良さそうにエレガントな主旋律を奏でる一方、セカンド・ヴァイオリンはずっと16分音符をうにうに弾くんですね。ピアノ用にも編曲されました。

この時代、4楽章構成の作品にはメヌエット楽章が含まれるのが普通でした。ですから、ボッケリーニのメヌエットは、他にもたくさんあります。なぜこのメヌエット(だけ)がボッケリーニの代名詞になったのか? 残念ながらわかりませんでした。

ボッケリーニの作品

交響曲を少なくとも27曲作曲したボッケリーニ。オペラやオラトリオなどの声楽作品や、協奏曲やソナタなどチェロのための作品もかなり作っていますが、彼の主要なジャンルは室内楽。

作品数も多く、100曲を超える弦楽五重奏曲、100曲近い弦楽四重奏曲、それ以外の編成の室内楽(三重奏曲や、オーボエなどの管楽器が含まれるものなど)も100曲以上作っています。

晩年は病気に悩まされ、経済的に困窮したまま1805年マドリードで亡くなりました。1927年に遺体が生地ルッカに移され、再埋葬されたそうです。

  1. 今回のコラムは、以下を参考にしました。Speck, Christian and Stanley Sadie. "Boccherini, Luigi" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 3: 749-764.  
  2. ちなみにこの番号は、ボッケリーニ本人による自作目録の番号。1775年にパリで出版されたときは、作品13でした。この2種類の数字が、時に混乱を引き起こしています。

  • Pompio Batoni: Luigi Boccherini Playing the Violoncello (c. 1764~c. 1767). National Gallery of Victoria, Australia.  https://youtu.be/MdUrjUfvruE?si=53dG88oNBllRNAOu  Boccherini: String Quintet in E, G. 275. Performed live by musicians from Ravinia's Steans Music Institute.

演奏会情報

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聖光学院管弦楽団第31回定期演奏会

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