次回4月の定期演奏会(ちょっと気が早いですが)では、リストのハンガリー狂詩曲第2番を取り上げます。オリジナルはピアノ独奏曲。狂詩曲(きょうしきょく)は、ラプソディー rhapsody の日本語訳。というわけで今回は、ラプソディーとは何か[注1]。
ギリシャ語の rhapsōdos に由来
ラプソディーは、楽器の伴奏無しに叙事詩(ホメロスなど)を朗唱する人を指すギリシア語 rhapsōdos に由来します。16世紀までに叙事詩以外の雑多な文章、さらには感情表現も意味するようになりました。音楽的ラプソディーの誕生
18世紀ドイツやイギリスで、断片的で自由な構成の文学的ラプソディーが音楽と結びついて、音楽的ラプソディーが誕生します。C. F. D. シューバルト(1739〜1791、ドイツの詩人、作曲家)のその名も《音楽的狂詩曲 Musicalische Rhapsodien》(1786)は、ピアノ伴奏付きの歌曲集(ピアノ独奏曲も数曲含む)。
ブラームスの《アルト・ラプソディー》(1869)は、ギリシア語の原義に近い用例と言えます。
ピアノ独奏のためのラプソディー
ピアノ独奏曲として最初期に作られたV.トマーシェク(1774〜1850、ボヘミアの作曲家)のラプソディー(1810)は、19世紀前半のピアノ用ラプソディーに大きな影響を与えました。
情熱的な主部と憧れに満ちた中間部を持ち、全体として即興的な感じですね。こうしてラプソディーは、アマチュアが家庭で演奏し楽しむ音楽として作曲されるようになります。
V. トマーシェク:ラプソディー op. 41, no. 1
リストのハンガリー狂詩曲
フランツ・リストの19曲から成るハンガリー狂詩曲(1〜15番:1846〜47年、16〜19番:1882〜85年)により、ラプソディーはアマチュアからヴィルトゥオーゾのレパートリーへと飛躍。また、ラプソディーが長年持っていた民族的、叙事的なイメージを定着させました。
オーケストラのためのラプソディー
ラプソディーがオーケストラのための大規模な民族主義的「叙事詩」として確立されたのは、19世紀後半以降。リストのハンガリー狂詩曲のオーケストラ編曲が影響を与えました。
ラロ、シャブリエ、アルベニス、ラヴェル、ラフマニノフ、バルトーク、他にも多くの作曲家がオーケストラのためのラプソディーを書いています。
吹奏楽のためのラプソディー、ガーシュウィンの《ラプソディー・イン・ブルー》、クラシックではりませんが《ボヘミアン・ラプソディー》のような用例もありますね。
自由な構造のなかに、様々に異なる性格の音楽を含み、即興的な要素も持つラプソディーですが、その日本語訳が狂詩曲。改めて考えると、すごい日本語名ですね。
注
- このコラムは以下の情報に基づきます。Rink, John. "Rhapsody," in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 21: 254-255.
- Portrait of Liszt by Henri Lehmann (1839). https://youtu.be/5KpSjO9JhWc Phyllis Moss
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