給湯器を新しくしたら、音声で知らせてくれるようになりました。お湯張りが終わると、オースティンの《人形の夢と目覚め》の中間部の音楽が流れます。なんて懐かしい! 小さい頃に馴染んだ音楽との、何十年振りかの再会です。
ノーリツさんがこの曲を使い始めたのが1997年と知って、驚きました(以前は違う会社の給湯器だった)。30年近い歴史があるなんて、凄い!
同メロディーは聞き飽きないよう、流行りすたりのないクラシック音楽に絞り、お客さまにこれからおふろに入る高揚感と幸福感を感じてほしいという思いを重ね、ドイツの作曲家テオドール・エステン(オースティン)のピアノ曲「人形の夢と目覚め」の第2部「夢を見ているところ」を選定しました[注1] 。
現在ではオースティンではなく、エステンTheodor Oesten(1813〜1870、ヴェルディやヴァーグナーと同い年)として知られているのですね[注2]。《人形の夢と目覚め》以外にも彼の《アルプスの鐘》や《アルプスの夕映え》は、ピアノ学習初級者の格好の発表会ピースです。
《お人形の夢と目覚め》の構造
もうひとつ驚いたのは、お湯張りメロディーとして使われている部分(譜例参照)が、人形の夢の部分であったこと。聞き覚えできちんと楽譜を見たことが無かったため、最初の3拍子のゆっくりした部分が人形の夢で、4拍子になってテンポが上がった(譜例の)ところから最後の2拍子部分も含めて、目覚めに相当するのだろうと勝手にずーっと考えていました。
でも、今回楽譜を確認したら、最初の Andante con moto 3/4 が Cradle Song ゆりかごの歌(子守歌)、その最後から7小節目、ドードドーのところに Dolly Sleeps お人形が眠る、Moderate 4/4に変わったところに Dolly’s Dream お人形の夢と書いてありました。譜例は眠っているところだったのですね。
どこで目覚めるかというと、この部分の最後から3小節目、鋭い和音のところ。Dolly Awakes お人形が目覚めると書かれていて、最後の Allegretto Moderato 2/4 は Dolly Dances お人形が踊る。なるほど、そうだったのか!
シンプルですが上品なメロディーで、お風呂に入る(「高揚感」はともかく)「幸福感」が感じられます。以前、西洋音楽史を教えていて「学校の掃除の時間の音楽だった」とか「ゴミ収集車の音楽」などと言われて困ることがありましたが、お風呂の音楽にはマイナス感がありません。
有名過ぎず無名過ぎず、まさに「流行りすたりのないクラシック音楽」。素晴らしい選曲です。
音の使い方
このメロディー以外にも、給湯器のスイッチを入れると「ミソド 」、スイッチを切ると「ソミド 」と鳴ります。
ソミドは確かに終わった感じがします。でも、それに合わせてスイッチ・オンをドミソにすると、いまひとつ安定しません。やはりミソド。これも良く考えられています。
ちなみに、給湯器と一緒に玄関ドアも替えたのですが、これにも音が使われていたはず[注3]。確かめてみたら、鍵がかかると「ソ ソレシ」、鍵が開くと「ソ ソレシ ソレシ」と鳴ります。こちらはト長調。
ドミソと同じでソシレは落ち着かないので、ソレシにしたのかな。1回よりも2回続いた方が、うれしい感じ? 鍵が閉まるより開く方が、うれしいものだから?
いろいろ考えてしまいました。目の不自由な方に配慮して、企業も音の使い方をいろいろ工夫しているのですね。
注
- 全音ピアノピースなどでは、現在もオースティンです。
- 株式会社ノーリツの Website より(https://www.noritz.co.jp/company/news/2021/20210428-004325.html)
- YKK APに替えました。
- Portrait of Theodor Oesten, Unknown author, before 1871,


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