074 サン=サーンスとリスト:《サムソンとデリラ》を巡って

2024/05/28

オペラ リスト 交響詩

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サン=サーンスは神童だったで書いたように、サン=サーンスは若い頃、ヴァーグナーやシューマン、リストら同時代の(=新しい)音楽を評価し、普及に務めました。今回は、フランツ・リスト18111886)との関係に焦点を当てます。

国籍のみならず、年齢もかなり違うサン=サーンスとリスト。特に接点が無さそうに見えるのに、サン=サーンスはリストの作品を演奏するコンサートを、自費で企画・指揮しています[注1]

18783月にイタリア劇場ホールで開催したコンサートもそのひとつ。開催のきっかけとなったのは、サン=サーンスのオペラ《サムソンとデリラ(ダリラとも)でした。

ギローの《フレデゴンド》の補筆を含め、13ものオペラを作ったサン=サーンス。でも、現在では上演されるのは、《サムソンとデリラ》だけ。実はこのオペラも、上演に至るまで紆余曲折がありました。

《サムソンとデリラ》とは

サムソンは旧約聖書の士師記に出てくる、ヘブライ人の英雄。怪力の持ち主で、ペリシテ人に征服されたガザを取り戻そうと戦います。

ペリシテ人の美女デリラは、歌と踊りでサムソンを誘惑。愛したデリラに自分の秘密を教えてしまったため捕えられたサムソンは、牢で石臼をひかされます。有名な〈バッカナール〉は、ペリシテ人たちが勝利を祝う、第3幕第2場の音楽。

ダゴンの寺院で見世物にされるサムソンは神に祈って力を取り戻し、寺院の柱を揺すります。柱が崩れ、サムソンとペリシテ人の見物人たちの上に寺院が崩れ落ちて幕となります

第3幕最後でダゴンの神殿を破壊するサムソン(エデン座、1890年10月31日)

《サムソンとデリラ》初演までの経緯

サン=サーンスは1867年から69年にかけて、第2幕を中心に作曲を進めます。しかし、聖書を題材とした作品を舞台で上演することに対して否定的な反応を示され、作曲を中断。

当時、特にパリのオペラ座のレパートリーは極めて保守的で、取り上げられるのは実績のある作曲家の作品だけでした[注2]。

リストは、ベートーヴェン生誕100周年記念式典で出会ったサン=サーンスにこの曲を完成させるよう勧めます。リストに励まされて作品を書き進め、1875年にパリのシャトレ座で第1幕のみを(演奏会形式で)上演。

でも、音楽評論家に酷評されます。1876年にオペラを完成させた後も、フランスの歌劇場は初演しようとしませんでした。

結局、リストが以前、宮廷楽長を務めていたドイツのヴァイマールで、187712月にドイツ語による初演が行われました。翌1878年にサン=サーンスがイタリア劇場で開催したコンサートは、《サムソンとデリラ》初演を巡るリストの尽力に感謝するためと考えられます。

《サムソンとデリラ》のフランス初演は、12年後の18903月にルーアンで行われました。パリでも同年秋に初演されましたが、オペラ座での初演は、さらに後の189211月。ヴァイマール初演から15年も後のことでした(すぐに大衆の支持を得てレパートリーに定着したそうです[注3])。

サン=サーンスと交響詩

サン=サーンスは、リストの交響詩をフランスで初めて演奏しました。交響詩はリストが創始した音楽ジャンル。サン=サーンス自身、《死の舞踏》など4曲作曲し、当時としては斬新であったこの形を世に広め、その後のフランス音楽の発展に影響を与えました。

余談ですがペリシテは、現在のパレスティナの名の由来にもなっている民族。《サムソンとデリラ》は紀元前12世紀が舞台ですが、3000年以上過ぎた現在でも、争いの構図は変わっていませんね。


  1. コラムは以下に基づいています。Ratner, Sabina Teller (with James Harding). "Saint-Saëns, Camille" in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 22: 124-135, 124.
  2. 酒井章『スタンダード・オペラ鑑賞ブック5:フランス&ロシア・オペラ』(音楽之友社、1999)、80ページ。
  3. 同上。

  • Portrait of Camille Saint-Saëns, Benjamin Constant, 1898.   
  • サン=サーンスの《サムソンとデリラ》パリ初演の第3幕最後で、ダゴンの神殿を破壊するサムソン(Jean-Alexandre Talazac)、エデン座、1890年10月31日。「イリュストラシオン」のエングレーヴィング(1890年11月8日)より。
  • https://youtu.be/6Unh4WJq_I0?si=A6aRp4s1NZBwmdJu Saint-Saëns: "Samson et Delila"- Metropolitan Opera, 1983. 

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