前回のコラムで書いたように、コラールはルター派プロテスタントの賛美歌。この動画のような、無伴奏のモノフォニー=単旋律の声楽曲です(コラール《Ein feste burg ist unser gott 》は、オケ奏者の方にはメンデルスゾーンの《宗教改革》交響曲終楽章の旋律と言ったほうが、通りが良いかもしれませんね)。
このモノフォニーの教会歌が、金管やハーモニーというコラールのイメージと、どのようにつながるのでしょうか。
マルティン・ルターは礼拝における音楽を重視し、教会に集まった一般会衆も一緒に歌えるように、ドイツ語を歌詞とするモノフォニーのコラールを整えました。何節もある歌詞を、同じ旋律を繰り返しながら歌うのを聴いていれば、曲を知らない人や楽譜が読めない人でも曲を覚えて歌えるようになります。
でも、無伴奏の単旋律ではさすがにシンプル過ぎ。ついこの前まで聖歌隊が、複雑なポリフォニー書法で作られたカトリックの典礼音楽を歌っていました。その聖歌隊の出番です。
ヴァルターの聖歌隊用編曲
1524年にルターの音楽面での協力者ヨハン・ヴァルター(1496〜1570)が、最初の聖歌隊用コラール集『Geystliches gesangk buchleyn』を出版。ルターの序文付きで、全32曲のうち24曲はルターのコラールです。その後何度も改訂・増補され、曲が追加されて再版され続けました。《Ein feste burg ist unser gott 》は:
訓練された聖歌隊用。4声でハモっています。コラールのイメージに近づきましたね!
ただ、上と同じコラールなのに同じ曲に聴こえません。動画についている楽譜を見るとわかるように、ヴァルターがコラールの旋律を、古くからグレゴリオ聖歌を担うパートであったテノールに置いたからです[注1]。最上声のソプラノが聴こえてしまいますから、内声のテノールが歌うコラール旋律を聴き取るのはとても大変です。
カンツィオナル様式のコラール
コラール旋律を最上声部に置き、その下を単純な和音で支える、よりシンプルな4声体ホモフォニーの形もあります。これが、カンツィオナル様式。この形なら、一般会衆も歌に参加することができます。そうです。これが、私たちがイメージするコラールです。
次の動画は、ドイツのシュパイアーの聖三位一体教会における、宗教改革記念日の礼拝。同じ《Ein feste burg ist unser gott 》が歌われます。
オルガンの前奏に続けて会衆が第1節を斉唱。次に聖歌隊がカンツィオナル様式で第2節を合唱(1:25〜)。多くの金管楽器が加わり、皆で第3節(2:31〜)。最後はオルガンも戻り、第4節が歌われます(3:27〜)。教会内の一体感が素晴らしいですね。
バッハの教会カンタータ
会衆も歌唱に参加するコラールは、プロテスタントの礼拝音楽である教会カンタータの核にもなります。バッハはこのコラールに基づく宗教改革記念日のための教会カンタータ《Ein feste burg ist unser gott BWV 80》を作りました。
第1曲は、第1節の歌詞のコラール・フーガ。第5曲は、オーケストラの対旋律付きの第3節(14:41〜)。そして、終曲第8曲は器楽も参加するカンツィオナル様式。第4節の歌詞が歌われます。
シンプルながら豊かな響きのなかで、会衆も聖歌隊も一緒に歌えるカンツィオナル様式のコラール。礼拝用の音楽に限らず、ドイツの音楽伝統のひとつとして、様々に用いられています。
上に書いたように、メンデルスゾーンの《宗教改革》に登場するのは本物のコラール。しかし、ブラ1終楽章序奏部のトロンボーンは、ブラームスが作った音楽です。正確に言うとコラールではなく「コラール風」ハーモニーですが、一般にコラールと呼び習わされています。
注
- 長岡英『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』アルテスパブリッシング、96ページ。
- Martin Luther (1529) by Lucas Cranach the Elder. https://youtu.be/uI7QMtXBLgY. https://youtu.be/Ju0Q9ownT84 Ev. Dreifaltigkeitskirche Speyer, Reformationsjubiläum. https://youtu.be/7i2z7prCyDY The Monteverdi Choir, The English Baroque Soloists, John Eliot Gardiner.
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