051 ソナタ形式に関する素朴な疑問

2023/04/25

ショパン ソナタ形式 ベートーヴェン モーツァルト 楽典 協奏曲 交響曲

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毎年この時期、一般大学でソナタ形式について講義します。楽譜が読める、楽器が演奏できるという学生もいますが、そうでない学生もいるので、理詰めで説明します。

  • 提示部、展開部、再現部の3部分から成る
  • 提示部で主題が2つ提示され、再現部で2つ再現される
  • 2主題は主調から別の調(対立調)に転調した後に提示され、再現部では主調で再現される

この基本構造を説明した後でモーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》の第1楽章を分析。授業後におもしろい質問が集まりました。

1.調号に関する疑問

第一主題から第二主題へ変化するとき調が変わると聞き、ト音記号の横のシャープが追加されるのかと思ったら臨時記号で調の変化を表していました。これはアイネクライネナハトムジークだけでしょうか? ト音記号の横のシャープが追加されて、調が変わることはありますか?

良い質問ですね。第2主題はイ長調で提示されますが、確かに調号(音部記号の右に付けられる♯や♭)はシャープ1つのままです。

これはおそらく、この小節からイ長調!という転調の仕方ではなく、主調のト長調から少しずつ変わっていつの間にかイ長調になっているからだと思います。

《アイネ・クライネ》のように臨時記号が使用されるのが普通ですが、調号が変わる場合も無いわけではありません。例えばショパンのピアノ協奏曲第1番ホ短調の第1提示部、第2提示部(2つの提示部に関してはドヴォコンの聴きどころ参照)の第2主題は、シャープ1つのホ短調からシャープ4つに増えたホ長調で提示されます(第1提示部第2主題は2:13〜くらいから)。

ただこれは、ショパンが普通と異なるパターンで作曲したからです。提示部では第2主題を3度上の長調(すなわち平行調)で提示するのが標準形。ホ短調の平行調のト長調であれば、調号は変わりません。ホ短調からホ長調(この関係を同主調と呼びます)に転調するのは、普通は再現部です。

ショパンがなぜこの曲の提示部と再現部で、逆の調を選んだのかはわかりません。いずれにせよ提示部の途中で調号が変わるのは、珍しい例と言えます(第2提示部の最後でシャープ1つに戻り、残りの部分はそのまま進みます)。

2.展開部の調

展開部は主調以外ということですが、第2主題と違う調で展開部が始まることもありますか?

提示部は第2主題の調で終わり、展開部もそのまま第2主題の調で始まることがほとんどです。でも「展開部は何でも有り」なので、そうでないこともあります(普通は避けるはずの主調で展開部が始まることもあります)。

ベートーヴェンの交響曲第5番第1楽章では、主調ハ短調の3度上の長調である変ホ長調で第2主題が提示され、提示部は変ホ長調で終わりますが、展開部は短調(ヘ短調)で始まります。

上のショパンのピアノ協奏曲第1番第1楽章はここも変則的で、第2提示部の最後で主調のホ短調に戻り(調号もシャープ1つに戻り)ますが、展開部はハ長調で始まります。動画の12:58〜くらいからを聴いてみてください(素朴な疑問シリーズ続く)。

  • Portrait of Fryderyk Chopin. 1836 by Maria Wodzińska. https://youtu.be/R3azyotbXgg  Krystian Zimerman, Polish Festival Orchestra.

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聖光学院管弦楽団第29回定期演奏会

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