042 ハイドンと交響曲《時計》③:初めてのロンドンで

2023/02/14

アンコール ザロモン ハイドン 交響曲 時計

t f B! P L


私の到着は全市に大きな興奮をまきおこしました。全新聞が3日にわたって私のことを書きたてました。誰もが私と知り合いになりたがっています(ハイドンがマリアンネ・フォン・ゲンツィンガーに宛てた手紙、1791年1月8日付)[注1]

1791年12日にロンドンに着いたハイドンは、大歓迎を受けます。ロンドンの社交界に現れたのは118日。女王の誕生日を祝ってセント・ジェームズで開かれた宮廷舞踏会や、プリンス・オブ・ウェールズ(後のジョージ4世)主催の王宮コンサートに招待されました。179521日には、ジョージ3世と王妃が出席する夜会が開かれ、ハイドンは演奏と歌で参加しています。

ロンドンの音楽事情

ロンドンは産業革命を通じて世界最大の経済都市に。フランス革命からの難民によってさらに国際色豊かになっていました。

残念ながら自国出身の作曲家には恵まれなかったものの、音楽活動は活発で変化に富み、海外からの芸術家が絶え間なく流入。王や貴族はもちろん一般市民たちも多彩な音楽を楽しむことができる、音楽「消費」地に。

音楽会シーズンは、2月から5月まで。

ハノーヴァー・スクエア・ルームズの2つのコンサート・シリーズ(月曜日にザロモン・コンサート、金曜日にはそのライバルであるプロフェッショナル・コンサート)と、火曜日と土曜日にオペラ、水曜日に「古楽」のコンサートが行われていました[注2]。

ハノーヴァー・スクエア・ルームズは、1775年に開館したロンドン一のコンサート・ホール。客席数は600です[注3]。

ハノーヴァー・スクエア・ルームズでのコンサート、1843

1回ザロモン演奏会

ハイドンを迎えた第1回ザロモン演奏会は、311日に開催。二部構成で、ハイドンの大序曲(交響曲のこと)は第2部の初めに演奏されました。

オーケストラは約40名。

ハイドンの研究者ランドンによると、内訳はヴァイオリン1216、ヴィオラ4、チェロ5、コントラバス4、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニです[注4]。すでに書いたように、コンサートマスターはザロモン①:ザロモンってどんな人参照)

ロンドンの新聞は、以下のように報じています。

今年ザロモン氏によって企てられたコンサートは、長らく延期されていたが、昨夜開催され、多数の非常に上品な聴衆が出席した。偉大なハイドンの直接の指揮による音楽の饗宴は、愛好家たちのあいだで、はなはだ美味なるご馳走として期待されていたものであるが、彼らは決して失望させられなかった。ハイドンによる新しい大序曲(交響曲第96番)は、最大の喝采を浴び、(中略)聴衆は魅了され、満場の希望によって、第2楽章がアンコールされた。つぎに第3楽章をもう一度繰り返すよう熱心に求められたが、作曲家の謙虚さは、反復演奏を許すにはあまりにも強かったのである(ダイアリー Diary 紙、1791年3月12日)[注5 ]

アンコール 

第2楽章(動画参照)がアンコールされたと報じられていますね。少し補足しておきます。

この時代のアンコールは、文字通り「もう一度」ということ。現在と違って、ある楽章が良ければ聴衆は楽章後に拍手していました。拍手が鳴り止まなければ、その楽章がアンコール=もう一度演奏されたのです。

音楽の先進地ロンドンで、ハイドン作品の人気が高かったのは当然。しかも、新曲が演奏されるだけでなく、彼自身がステージ上に登場して自作の演奏に加わったのですから、聴衆が熱狂するはずです。

311日に始まった1791年のザロモン演奏会は、6月3日までの12回の予約演奏会と2回の追加演奏会で、計14回行われました。また、516日にはハイドン自身の主催による慈善演奏会、530日には追加演奏会が行われています。

ハイドンの作品は常に好評で、ザロモンの企画は大成功!! 翌1792年のシーズンも契約を結びます(続く)。

  1. 大宮真琴『ハイドン新版』音楽之友社、1981年、123ページ。 以下も pp.123-125 によります。
  2. Webstr, James. "Haydn, Joseph," in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 11: 171-271, 185.
  3. http://www.hberlioz.com/London/BLHanoverSquare.html
  4. 大宮、127ページ。
  5. 大宮、128ページ。

  • Portrait of Haydn by Thomas Hardy (1791).  Engraving from The Illustrated London News showing a concert in Hanover Square Rooms on Hanover Square, 24 June 1843.  https://youtu.be/l4Ti1SVf4qo Haydn: Symphony no. 96 in D, Hob I: 96.  The Orchestra of the 18th Century, conducted by Frans Brüggen. 「ハイドンとザロモン交響曲」から改題しました。

演奏会情報

演奏会情報
聖光学院管弦楽団第29回定期演奏会

最新コラム

072 《魔笛》はオペラ?

このブログを検索

QooQ