交響曲の第2楽章は緩徐楽章。静かでゆったりとした楽章の後、スケルツォが続きます。でも《第九》ではスケルツォが先。緩徐楽章が第3楽章に置かれています。これも、ベートーヴェンが交響曲において試みた、様々な掟破りのひとつ。伝統的な楽章配置を否定した、革新的ポイントです。
交響曲の楽章配置
ハイドンは、急―緩―急3楽章構成のシンフォニーア(赤ちゃん交響曲)に流行音楽であるメヌエットを導入するにあたって、最初の急楽章と次の緩楽章の間と、真ん中の緩楽章と最後の急楽章の間のどちらにメヌエットを置くか、両方の可能性を試しています[注1]。交響曲ではなく、交響曲の小型版である弦楽四重奏曲で実験しました。
作品20の6曲の弦楽四重奏曲のうち、第3楽章がメヌエットなのは3曲。残りの3曲は、第2楽章がメヌエットです。また、次の作品33《ロシア弦楽四重奏曲集》6曲ではメヌエットではなくスケルツォが使われていますが、第3楽章がスケルツォの曲は4曲。残りの2曲は第2楽章です。
結局、メヌエットを緩徐楽章の後の第3楽章に置くのが定形に。ハイドンもモーツァルトも、4楽章構成の交響曲はこの配置で作曲しました。またベートーヴェンも交響曲第2番でメヌエットをスケルツォに変更するものの、順番は交響曲第8番まで、緩徐楽章→スケルツォの定形を守ってきました。
バランスを考えて
《第九》で初めて逆にしたのは、曲全体、特に長大な第4楽章とのバランスを考えたからでしょう。このスケルツォは、スケルツォ主部が A―B―A' のソナタ形式で作曲されていて規模が大きく、楽章全体で900小節以上もあります。
もしも定形どおり第3楽章に置かれていたら、前半と後半のバランスが悪く、演奏の際の体力配分が難しかったことでしょう。
第2楽章 Molto vivace(スケルツォ)
付点音形のオクターヴ動機が特徴的な第2楽章。8小節の短い序奏の後、そのオクターヴ動機から始まる主題を使った5声フガートが続きます。入る順番は、セカンド、ヴィオラ、チェロ、ファースト、コントラバス(譜例1の・印)。
トリオは2分の2拍子ニ長調で、雰囲気は平和で穏やか。スケルツオ部分と対照的です。トリオ冒頭で、この曲で初めてトロンボーンが登場(譜例2の丸印)。インパクトがありますね。
ティンパニのチューニング
ティンパニは、ファとファです。主調の主音と属音にチューニングされるのが普通ですが、ベートーヴェンの交響曲第8番の終楽章もファとファでした。
でも、8番は主音のオクターヴ。こちらのファはニ短調の第3音ですから、珍しいですね。このファのオクターヴを活かしたティンパニのソロが、5小節目などあちこちにあります。
第3楽章 Adagio molto e cantabile(緩徐楽章)
ファゴットとクラリネットが次々と加わる2小節の序奏の後、弦楽器が静かなアダージョ主題(変ロ長調、4/4)を演奏(譜例3)。これと、その後のアンダンテ主題(ニ長調、3/4、譜例4)による変奏曲です。
アダージョ主題はスケッチの段階で、オペラでしばしば祈りの表現に使われる「カヴァティーネ cavatine」と書かれていました[注2]。確かに、祈るような雰囲気にも感じられますね。
アダージョ主題第2変奏では、第4ホルンのソロが登場。コーダでは突然フォルテになってファンファーレが2回奏されますが、何事も無かったかのように静かに終わります。
以前、聖光学院(横浜)の卒業式ではこの《第九》第3楽章が卒業証書授与のBGMの1つとして使われていました。現在はどうかな。
注
- 赤ちゃん交響曲と流行音楽メヌエットに関しては、長岡英『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』アルテスパブリッシング、2014、pp. 17-27を参照。
- 土田英三郎『ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125、ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2000、pp. viii-ix。
- Portrait by Joseph Karl Stieler, 1820. https://youtu.be/rJH9b9EQtHM Orchestre Révolutionnaire et Romantique, John Eliot Gardiner, 2020.
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