前回のコラム101 ブラームスの時代はエンドピンを使わなかった!(「チェロのエンドピン」から改題)で書いたように、ブラームスの二重協奏曲の初演でソロをしたロベルト・ハウスマンは、エンドピンを使っていませんでした。エンドピンがソリストたちにも使われるようになったのはここ100年くらいだなんて、驚きですね。
それでは、ヴァイオリンのあご当てはいつ頃から使われたでしょうか?
ルイ・シュポーア
ヴァイオリンのあご当ては、ルイ・シュポーアの名前と結びつけられています。今回改めて調べてみたら、彼は1784年生まれのドイツ人! 本名はルートヴィヒ・シュポーアでした(上の画像は、彼の自画像です)。
作曲家としては多作家で、1859年に亡くなるまでオペラ10作、交響曲10曲、ヴァイオリン協奏曲18曲、弦楽四重奏曲36曲の他、多様な室内楽作品、オラトリオ4作、ミサ曲とレクイエムなどを作っています。ウィーンでアン・デア・ウィーン劇場の指揮者を務めた時期があり、ベートーヴェンとの交流もありました。
シュポーアは、ヴァイオリン・ヴィルトゥオーゾ。1832年には、『ヴァイオリン教本 Violin-schule』を出版しています。スピッカートなど当時最新のヴァイオリン奏法を体系化したもので、教則本として広く使われました。
あご当てのメリット
その中でシュポーアは、10年ほど前に彼自身が「フィドル・ホルダー(fiddle holder)」と呼ぶものを発明したと主張しています。演奏における頻繁なポジション移動を助けるためです。
シュポーアはこのあご当てによって、ヴァイオリンをしっかり、自由に保つことが可能になり、左手が解放されると述べています。また、楽器を動かさずにポジション移動ができるため、弓の動きに安定感(tranquillity of bowing)が得られると述べています。
さらに、楽器本体やテールピースへのあごからの圧力がなくなり、それらの振動が妨げられなくなるため、音質や音量の向上にもつながるとも指摘しています。
シュポーアのあご当て
でも、驚いたことにシュポーアのあご当ては、楽器の中央部分に直接取り付けられています(図1参照)。18世紀フランスのヴァイオリン奏者ラベ・ル・フィスが1761年に彼の理論書に書いて以来、多くの著者が、ヴァイオリンはテールピースのG線側(左側)にあごを乗せて構えるべきだと勧めているのに[注1]。
シュポーアは本当にこのあご当てを使っていたのでしょうか。不思議ですね。
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図1:シュポーアの『ヴァイオリン教本』に描かれている あご当て(フィドル・ホルダー) |
注
- 本名ジョゼフ=バルナベ・サン=スヴァンJoseph-Barnabé Saint-Sevin、著書名はPrincipes du violon, pour servir de leçon aux élèves de cet instrument(『ヴァイオリンの原理:この楽器を学ぶ生徒のための教本』、1761)。
- Autoportrait de Ludwig Spohr.
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