歓喜主題が生成された後、再び「恐怖のファンファーレ」が響きます。今度は、弦楽器も加わった tutti。そして、待ちに待っバリトン独唱が「おお、友よ、これらの調べではなく! O Freunde, nicht diese Töne!」(本物?!の「否定のレチタティーヴォ」)と歌い始めます。
「歓喜 Freude」の一語を合唱バスと2回ずつ歌い交わした後、その「歓喜」から始まるシラーの詩に進みます。第1節から第3節までが歌われる間に次第に声部数が増えていきますが、全体として低音で始まり高音部へと積み重なっています。
これだけで十分感動!ですよね。でも、お楽しみはこれから。オーケストラだけの部分と同様に声楽導入以降の部分も、ベートーヴェンの構成は実に独創的。
この後の部分を、大きく5つに分けて説明します。
その1:トルコ行進曲風セクション
コントラファゴットの驚くほど低い音がぼっ、ぼっと鳴り始めるところ(6/8拍子、ヘ長調)には、alla Marcia(行進曲風に)の指示があります。
このセクションでは大太鼓とシンバル、トライアングルが加わりますが、打楽器の使用はトルコ的音楽の象徴。オスマン帝国の軍楽隊メヘテルハーネで、このような楽器が使われていたためです。だから、トルコ行進曲風[注1]。
メヘテルハーネ(miniature from 1720) |
でも、単に異国情緒を取り入れたのではありません。歓喜主題を歌うテノール独唱と男声合唱のコンビネーションは、オペラにおいて英雄的な表現に使われる「合唱付きアリア」[注2]。
軍楽隊を思い起こさせる行進曲とともに、「勇士が勝利へ向かうように wie ein Held zum Siegen」という歌詞に呼応しているのです。
ちなみに、ぼっ、ぼっの後、シンバルとトライアングルとピッコロが加わる343小節から374小節までの前奏部は、後から作曲された部分[注3]。ということは、初めはいきなりテノール独唱が続いていたのですね。
オーケストラのフガートが引き継ぎます。8分音符が続く旋律が、歓喜主題に基づくフガート主題と必ずペアにされるので、ニ重フーガ的です( 004 《第九》の中の対位法参照)。速いテンポは、「飛翔する fliegen」「走れ laufet」を思い起こさせます。
いきいきとした、しかし緊張感あふれる対位法部分の後、ファ♯だけになり、ニ長調で歓喜主題が再現。全ての弦楽器が、まるでそれを応援するようにユニゾンで8分音符の対旋律を奏でます(第4楽章バリトン独唱以降2に続く)。
注:
- 《第九》とメヘテルハーネに関しては、長岡英『オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識』アルテスパブリッシング、2014の「《第九》とトルコ行進曲」pp. 206-208を参照。
- 土田英三郎『ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125、ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2000、p. xiv。このコラムの歌詞の日本語訳は、同書p.xviを使用。
- 同上
- Portrait by Joseph Karl Stieler, 1820. Mehterhâne. Ottoman miniature painting, from the "Surname-ı Vehbi" (fol. 172a - left- and 171b - right). https://youtu.be/rJH9b9EQtHM Orchestre Révolutionnaire et Romantique, John Eliot Gardiner, 2020.
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。