今回のコラムは、プーランクもメンバーだったフランス「6人組(Les Six)」の精神的なモデル、サティについてです。
エリック・サティ Erik Satie(1866〜1925)
ノルマンディー地方の港町オンフルールに生まれました。生年が近いのは、1862年生まれのドビュッシー、1960年生まれのマーラーですね。
モンマルトルのキャバレーでピアノを弾いたり、神秘主義的な傾向を持つ秘密結社「バラ十字会」の公認作曲家になったり。
《梨の形をした3つの小品》(1903)、《ぶよぶよした前奏曲》(1912)、《干からびた胎児》(1913)、《官僚的なソナチネ》(1917)など、奇抜なタイトルも(いずれもピアノ曲)。
サティといえば、《3つのジムノペディ》(1888)が有名ですね。ゆったりと漂うような、不思議な音楽です。それもそのはず。この曲では、クラシック音楽の第1のお約束である、ドミナント(属和音)→トニック(主和音)という進行(終止形=カデンツ)が避けられているのです。
《3つのジムノペディ》(1888)より第1番
第1小節目は G H D Fis の和音(主調ニ長調の4度:ソ上の7の和音)。第2小節目は D Fis A Cis の和音(主音:レ上の7の和音)。この2種類の7の和音が、交互に何度も反復されます。その後も主和音 D Fis A や属和音 A Cis E が避けられ、物憂い感じやとりとめのない印象を与えています。
前半の最後、ようやくニ長調の主和音で一息つくところ(1:37あたり)があります。でも、ここも通常の Cis→D という導音→主音の進行がありません。代わりに、中世の教会旋法の区切り C→D が使われます。
《ジムノペディ》第1番、前半最後の主和音(1:37あたり)
一段落ついた感じはするけれどなんとなく物足りないのは、聴き慣れたドミナント→トニックという西洋音楽の終止ではないからです。結局、ドミナントが登場しないまま音楽が終わってしまいます。
イギリスの New Grove 音楽事典第2版はサティを「因襲打破者であり、常に未来を見据えたアイディアの人」と定義しています[注1]。わずか数分足らずの《ジムノペディ》第1番でも、因襲が打ち破られていますね。
「家具の音楽 Musique d’ameublement」
「座り心地のいい椅子や何気なく壁に掛けられた絵画のように、人びとの注意をひかず、そこにあるだけで安らぎやくつろぎをもたらす音楽」[注2]という、サティが1920年に初めて書いた「家具の音楽 」の理念は、1960年代から提唱された「環境音楽」に影響することになります。
サティは生涯大酒飲みで、肝硬変のため59歳で亡くなりました。
注
- Orledge, Robert. "Satie, Erik [Eric] (Alfred Leslie)," in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 22: 313.
- 白石美雪「20世紀 (1)」『初めての音楽史』久保田慶一他、音楽之友社、2009、113。
- Portrait d'Erik Satie par Suzanne Valadon (1893). https://youtu.be/YDm_P3mDIRo Gymnopedie 1 & 2. Olga Scheps, March 2018.
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