前回、「004《第九》と対位法」のコラムを書いたのは、実はエッシェンバッハ指揮のN響によるマーラーの交響曲第5番を聴いたのがきっかけです。圧巻の演奏(特に、自由自在なホルン・ソロ!!)に興奮しつつ、「マーラーは交響曲で、これほど対位法を用いていたのか」と改めて考えさせられたのです。
ベートーヴェンと対位法
ベートーヴェンが主題動機労作と呼ばれる作曲法に限界を感じ、対位法と変奏技法に立ち戻ったのは、自然な流れだったと思います。
彼は若いころ、生地ボンでネーフェ(Christian Gottlob Neefe, 1748〜98 )、ウィーンに移ってからはハイドンやシェンク(Johann Baptist Schenk, 1753〜1836)、アルブレヒツベルガー(Johann Georg Albrechtsberger, 1736〜1809)ら、当地で活躍していた作曲家たちに対位法を学びました。
また、ボンの宮廷オルガニストであったネーフェはベートーヴェンに、当時よく知られていたカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714〜1788)だけでなく、その父ヨハン・ぜバスティアン・バッハの音楽も教えています。
マーラーと対位法
もちろんマーラーも、ウィーン音楽院で和声学や対位法を学びました。また、1877年夏に大学入学資格を得て同年秋からウィーン大学に登録。和声学などを講義していたブルックナーと交流しています[注1]。
でも、彼が生きたのはベートーヴェンよりもずっとずっと後。世紀末から20世紀へ移り変わる時代です。
「交響曲」というジャンル自体、ある意味、流行遅れでした。
ましてや対位法なんて過去の遺物(!!)。身につけておくべき技法であったにせよ、保守的な作曲家以外、実際にはあまり用いなかったのだろうと漠然と考えていたのですが。
マラ5 終楽章の対位法
マーラーの交響曲第5番(1904年初演)の終楽章って、かなり対位法を使っているんですね。フーガの提示部にあたる部分(004《第九と対位法》参照)もあります。各声部の入りは順番に:
vc(dux)→ 2nd vn(comes)→ va(dux)→ cb、途中からvc(comes)
小節の頭の音は、dux がラ、comes がレです。この後は、同じ主題がより自由に展開されているので、フガート(厳格なフーガではないがフーガ的な部分)と呼ばれます。
終楽章のフーガ提示部(フガート冒頭)
8分音符で動く忙しない主題は、少しバロック的な印象も。対位句には、序奏部の旋律が使われています。この主題、様々に対位法処理されながら音楽を進めていきます。
葬送行進曲の第1楽章とさらに激しい第2楽章、長大なスケルツォと進み、弦楽器のみの第4楽章を経て、楽しげで生き生きとしたロンド・フィナーレへ。他楽章の主題も再登場。いろいろな旋律が対位法も用いて織り合わされ、輝かしい勝利が宣言されます。
マーラーって難しい。そして、マーラーってすごい! ですね。
注
- 船山隆『マーラー』カラー版作曲家の生涯、新潮文庫、1986、22。
- Gustav Mahler, photographed in 1907 by Moritz Nähr at the end of his period as director of the Vienna Hofoper. https://youtu.be/9Hm14ZATHO0 Michael Gielen & SWR Symphony orchestra. この動画の analysis、面白い方法だと思いました。
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