099 《フィンランディア》に関する3つのポイント

2025/09/02

エニグマ シベリウス

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間近に迫った聖フィル第32回定期演奏会の第1曲目は、ジャン・シベリウスの交響詩《フィンランディア》。今回はこの曲について考えます。

1.《フィンランディア》とエルガー《エニグマ》の共通点

この2曲、ほぼ同じ時期に作曲されています。

《フィンランディア》は、フィンランドの歴史を描いた一連のタブロー(視覚劇)のための音楽の一部として1899年に作曲され、11月に「報道祭」の一環として上演されました。この祭典は、フィンランドに対するロシアの影響力強化に抗議(後述)するための、抵抗運動の一部でもありました。

最後の第6タブローの音楽 〈フィンランドは目覚める〉 は愛国的なクライマックスを持ち、すぐに評判になります。シベリウスは翌1900年に独立曲として改訂。ある匿名の崇拝者の手紙の提案により、《フィンランディア》という題名を与えました(この匿名者は後にアクセル・カルペランAxel Carpelanであることが判明します)。

一方、《エニグマ》は1898年10月に作曲に取り掛かり、1899年6月19日に初演されました。両曲とも19世紀から20世紀への変わり目に作られたことになります。

2.違う題名で演奏された

短調の遅い部分、短調の早い部分、そして長調の早い部分の3部分から構成される《フィンランディア》。

フィンランドは1809年にスウェーデンからロシア帝国に割譲され、シベリウスの時代も、ロシア皇帝がフィンランド大公を兼ねるフィンランド大公国でした。

最初の遅い部分の重苦しさは、支配するロシア帝国の圧を感じさせますし、続くテンポが上がった短調の部分は、フィンランドの人々の独立の叫びのよう。最後に長調に変わった部分は、ロシアに対する勝利の凱歌!に聴こえます。

しかし、フィンランドが独立するのはロシア帝国が滅亡する1917ですから、まだまだ先。勝利の凱歌は国民の夢であり希望なのです。

当然ロシア側も音楽の意図に気づいていますから、検閲で却下されて演奏できません。そのため、様々な偽名が使われました。たとえば「フィンランドの春の目覚めにおける幸福な感情 Happy Feelings at the awakening of Finnish Spring」や「スカンジナビアの合唱行進曲 A Scandinavian Choral March」など。

また、ロシア帝国内では、「即興曲 Impromptu」などのタイトルで演奏されたそうです[注1]。

3.フィンランディア賛歌の元歌

ウィキペディア日本語版の「フィンランディア」の項目の中に、以下のような記述があります。

2003年、マッティ・ヒュエッキは博士論文において、シベリウスがフィンランディア賛歌の旋律をエミール・ゲネツの1881年の合唱曲《目覚めよ、フィンランド!(Herää Suomi!)》の冒頭部から借用した、と述べた[2]。この歌は当時よく知られており、したがってこの引用はおそらく意識的であったとヒュエッキは述べている[3]。 

あの、まさに祈りのような旋律についてですが、この注2、私が10年以上前に書いた聖フィルコラムを引用しているんですね。今回初めて気付いて、驚きました(古いコラムは、現在読むことができません)。

このMatti Hyökkiへの言及は、ウィキペディア英語版には無かったのですが、ウィキペディアのフィンランド語版に出ています。

Matti Hyökki は2003年の博士論文において、シベリウスが《フィンランディア賛歌》の冒頭の旋律と和声進行を、Emil Genetz 1881年に作曲した愛国的な合唱曲《目覚めよ、フィンランド!(Herää Suomi!)》からほぼそのまま借用したと主張しました。
この歌は当時非常によく知られていたため、Hyökki によれば、この借用は意図的な行為だったと考えられるものの、シベリウスはそれを公に認めたことは一度もないとのことです。[2: Finlandian alkutahdit ovat kopio Kaleva. 2.12.2003. Viitattu 26.5.2016.] 
現在なら、このゲネツの《Herää Suomi!》の演奏や楽譜を探すことが可能です。結論から言うと個人的には、「ほぼそのまま借用した」と主張できるような《フィンランディア賛歌》との旋律と和声進行の類似性は、感じられませんでした[注2] 

  1. 先のふたつの義名はウィキペディア英語版より。ロシア帝国内の偽名は、フィンランドの観光ウエブサイト https://finland.fi/arts-culture/finlandia-by-jean-sibelius/ より。今回のコラムはこの2つからの情報に拠っています。
  2. むしろ、もしかしたら間違った楽譜や動画を見ているのだろうかと思うほど、類似性が薄いと言うべきかもしれません。

演奏会情報

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聖光学院管弦楽団第32回定期演奏会

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