聖フィルは次回9月の定期演奏会で、フランツ・フォン・スッペ(1819〜1895)作曲の喜歌劇《スペードの女王》序曲を取り上げます。
緩―急―緩―急の4つのセクションがそれぞれ魅力的な序曲ですが、序曲の後に続くオペレッタ(喜歌劇)本体がどのようなお話なのか、よくわかりません。検索しても、チャイコフスキーのオペラ《スペードの女王》のあらすじが出てくるだけ。
スッペの喜歌劇《スペードの女王 Pique Dame 》とは?
英語版ウィキペディア Pique Dame (Suppè) によると、
- 1862年にスッペが作った1幕のオペレッタ《占い師 Die Kartenschlägerin》(失敗作)を、2幕に改訂したもの
- その際、アレクサンドル・プーシキンの《スペードの女王》(1834)のフランス語タイトル《Pique Dame ピケ・ダーム》と改題
- 旧作《占い師》も改訂版《ピケ・ダーム》も、プーシキンの《スペードの女王》に非常にゆるやかに基づいている
- 1864年6月、グラーツのタリア劇場でスッペ監修により初演
- 1865年、ウィーンのカール劇場でも開幕
- 当時はかなり成功し、1867年に序曲が出版された
登場人物
- 占い師ユディト(メゾ・ソプラノ)
- エミール:陸軍士官で作曲家、ユディットの養子(バリトン)
- ヘドウィグ:エミールと愛し合っている(ソプラノ)
- ファビアン・ミューカー:ヘドウィグの後見人(テノール)
- ヘドウィグの友達ヘンリエット、エマ、ファンニ、ベルタ(以上ソプラノ)、クララ(メゾ・ソプラノ)
- エミールの友達ゲブハルト(バス)、フェリックス(テノール)
- マダム・デュプレシス:ヘドウィグの母、裕福な未亡人(歌わない台詞のみの役)
あらすじ
若い作曲家エミールが、裕福な未亡人の娘ヘドウィグに恋をしている。彼女の後見人であるファビアン・ミューカーも、彼女に恋をしている。エミールの養母である占い師ユディットの努力により、エミールとヘドウィグの結婚が成立。最後にミューカーがエミルの叔父であることも判明し、ハッピーエンド。
ここで素朴な疑問
このお話、タイトルの「スペードの女王」とどうつながるの?!?
わかりません。「非常にゆるやかに基づいている」とあちこちに書かれているので、プーシキンの『スペードの女王』を見てみました。
プーシキン:『スペードの女王』あらすじ
帝政ロシア軍の工兵将校ヘルマンは、3枚の勝ち札の話を聞く。その秘密を知る老伯爵夫人から勝ち札を聞き出そうと銃で彼女を脅すと、老婦人は怯えて死んでしまう。その後、彼女の亡霊が現れ、ヘルマンに秘密の3枚の勝ち札(3、7、1)を告げる。ヘルマンは最初の夜にすべての財産を3に、2日目の夜に7に賭けて大勝ちするが、3日目の夜に1に張ったはずが、エースではなくスペードのクイーンになっていた。絵札の女王が伯爵夫人そっくりであることに気づいたヘルマンは発狂してしまう。
登場人物も内容も、スッペとは異なりますね。
そもそもスッペのオペレッタはハッピーエンドですから、プーシキンのバッドエンドの元であるスペードの女王が、どのように絡んでくるのか想像できません。
CDについて
ところで、2009年にこのオペレッタの音楽(序曲を含む全10曲)が発売されました(ミハイル・ユロフスキ指揮ケルン・フィルハーモニー)[注1]。ネットでスッペの《スペードの女王》を検索すると、このCDの批評が複数出てきます[注2]。その中に、この歌劇は、若い女性の結婚をめぐって対立する求婚者たちが、主人公の母親が行う占いを自分たちに有利なものにしようと努力する姿を描いている。という情報がありました[注3]。主人公ユディットは占い師なので、彼女がスペードの女王を含めたトランプを扱うのは確かですね。
ちなみにこのCD、「台本が付いておらず、解説に記載されているあらすじも明確ではない。(中略)各曲で何が起こるかについての短く不十分な指示以上のものがあれば、楽しみは大幅に増加したはず」とも評されています(John Sheppard)。
というわけで、残念ながらスッペのオペレッタ《ピケ・ダーム》のストーリーとタイトル「スペードの女王」の関係は、よくわからないままです。もしさらに何かわかったら、またご報告しますね。
注
- CPO 777 480-2. 「1幕」と書かれていて、台詞は録音されていません。
- 英語版ウィキペディアも批評からの情報を使っています。
- Andrew Lamb, https://www.gramophone.co.uk/review/suppe-pique-dame
- Franz von Suppè by Fritz Luckhardt, unknown date.
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