イタリア語は、名詞の後に -etto が付くと「小さい」という意味が加わります。allegro アレグロ→ allegretto アレグレットで、小さいアレグロ。すなわち、アレグロより少し遅いテンポという意味ですね。
女性名詞の場合は -etta が付くので、sinfonia シンフォニーア→ sinfonietta シンフォニエッタ。小さなシンフォニーです。
ウィキペディアの日本語版「シンフォニエッタ」には、ヤナーチェクを含め65人もの作曲家の名前がずらりと並んでいます。こんなにたくさんの作曲家が、小交響曲を作ったのですね!!
でも、ウイキペディア英語版のリストはさらに長大。様々なシンフォニエッタを作った作曲家が88人!!! ちなみに日本語版には9人の日本人作曲家が含まれていますが、英語版には2人だけ。諸井三郎は英語版にしか載っていません。《子供のための小交響曲》だから??
その英語版88人のうち、78人のシンフォニエッタには作曲年が付いていますが、19世紀の作品はリムスキー=コルサコフの《ロシアの主題によるシンフォニエッタ》(1879〜84)だけ。他は20世紀初頭以降です。それもそのはず。
「小交響曲」という用語が常用になったのは、20世紀初め
小さな協奏曲コンチェルティーノ(-ino も -etto と同じ縮小辞、指小辞)は、ヴェーバーの例などがありますが、小さな交響曲シンフォニエッタは20世紀初め以降使われるようになった用語[注1]。何に比べて小さいかというと、
マーラーの交響曲への反動と考えられる
マーラーが完成した10曲の交響曲(《大地の歌》を含めて)は、行き着くところまで行ってしまった交響曲の姿です。
まず、楽器が多い。4管編成が基本で、ときにはそれ以上。
また、曲が長い。演奏するのに1時間から1時間半かかる曲が大半。
規模の大きさは、交響曲史のみならず音楽史上の1つの極限を示していると言えます。マーラーの後の作曲家たちは、両側面からこの極限状態の交響曲を批判します。
1.編成の側面からの批判
たとえばシェーンベルクの「室内交響曲第1番」(1906)。
管楽器奏者10人(Fl, Ob, C.i, Cl2, Bcl, Fg, Cfa, Hr2)と、弦楽器奏者5人(Vn2, Va, Vc, Cb)計15人の奏者のために作られました。1パート1人なので室内楽の定義に合いますが、弦楽器奏者の3倍の人数の管楽器奏者を必要とするのは、「交響曲」としては有り得ないことです。
Arnold Schönberg: Chamber Symphony No. 1, Op. 9
プーランクのシンフォニエッタは2管編成。トロンボーンが入らないので、ベートーヴェンの4番までなどの編成です(でも、ハープが入るところが古典派との大きな違い)。
そうそう、プーランクを弾いていると思い出す曲があります。プロコフィエフの交響曲第1番《古典》。2管編成で(ハープも無し)、第1楽章と第4楽章はちゃんとソナタ形式で作られていますが、和声が明らかに20世紀。
2.長さの側面からの批判
実は、プーランクはプロコフィエフを意識して《シンフォニエッタ》を作りました。BBCに作曲を委嘱されるとき、「プロコフィエフの古典交響曲をモデルに14〜16分で」つまり、小編成で、短めのオーケストラ作品を、という条件だったそうです[注2]。
それなのに。1947年8月18日付けBBCのプロデューサー、ロックスパイザーへの手紙には
大変です。《シンフォニエッタ》は1曲の交響曲になってしまいました。最初の3つの楽章だけですでに19分かかります[注3]。
最終的にスコアには24分とあり(指定のテンポで弾いたらということですが)、「小」交響曲と言うには微妙な長さになっています。きっとプーランク、素敵なフレーズがいっぱい出てきて、止められなくなってしまったんですね。
それでもマーラーの交響曲に比べたら、明らかにすごーく小さい! やはりシンフォニーではなく《シンフォニエッタ》、でもあまり小さくない小交響曲です。
注
- Temperley, Nicholas. "Sinfonietta," in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2d ed., ed. S. Sadie and J. Tyrell (London: Macmillan, 2001), 23: 421.
- 遠山菜穂美『プーランク:シンフォニエッタ、ミニチュア・スコア解説』全音楽譜出版社、2020、p.7。
- 上掲書、p.8。
- Poulenc in the early 1920s. Joseph Rosmand. https://youtu.be/37JV7Pdj-ic Omega Ensemble, Paul Meyer.
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